死体埋めの彼の嘘
短編です。勢いで書いた感がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。
「死体があったので、拾ってきました」
赤ん坊の人形を握り締め、彼は教室の扉を開けた瞬間、淡々と言いました。
「これです。見てください」
赤ん坊の人形は赤黒く染まっていて、本物の死体かと錯覚してしまうほどでした。
――これが彼の最初の『嘘』でした。
***
庭の敷地を掘り起こし、何かを埋めている姿。
私はそれが気になって、彼に声を掛けました。
「何してるの?」
「死体を埋めてるんだ」
傍には子供を模した人形が。
一瞬、死体ではないかと錯覚し、私はため息をつきました。
「それは人形だよ」
「分かってるよ、だから、埋めてるんだ」
「どういう意味?」
「人形も、死体の一種でしょ?」
当然のごとく、彼は淡々と言いました。
――前に彼が赤子の死体と称した人形も、騒ぎになった挙句、彼はこっぴどく叱られていましたが、彼はめげることがありません。
「人を殺しました」
そんなことを言って、深々とナイフを刺した等身大のマネキンの前に大人達を呼び出したことすらあったぐらいです。
いつしか彼は嘘吐きだと言われるようになりました。
死体以外のことに関しては信頼があるのに、その一点だけが全く信用されていないのですから難儀なものです。
彼は幼少期、壊れた人形がごみ箱行きだったのが可哀想で、きちんと埋葬してあげたことが、『人形=死体』という思考になったきっかけだったらしいのです。
彼は彼なりの誠実さを持って、『死体』と向き合ってきたのです。
――ただ、周囲に誤解を受け、理解されないのが難点ですが。
「なら、なんで前、マネキンを刺したの?」
私が聞くと、彼は目尻を下げて、哀悼の意を示しました。
「壊れたマネキンが可哀想だったから」
「可哀想?」
「首がね、パックリと割れてたの。だけどね、人だったら死ねない程度の怪我で、捨てられてたから」
「……」
「あんまりにも可哀想で、痛そうだったから」
「……止めを刺したの?」
「そうだけど、殺したのは変わりないからすぐに自首したよ。怒られちゃったけど」
「……そう。優しいね」
「臆病なだけだよ」
言いながら、彼は優しく微笑みました。
そんな彼に、私は言いました。
「頼みがあるの」
「何?」
「私を、埋めてほしいの」
「え?」
キョトンとする彼がそこにいました。
***
「君はずっとここにいたの?」
山奥に、彼を誘いました。
「そうだけど」
「なら、なんであの教室にいたの?」
「私、あの教室の子だったの。――随分前だけど」
「捜索は?」
「分からない」
「……そう、なんだ」
心痛める姿に、私は苦笑しました。
「あなたのせいじゃない」
「分かってる。分かってるけど――」
割り切れないものがあると言いたげでした。
「こんな状態なんか、絶対に嫌だったんじゃないの?」
見上げた先には、骸骨化した死体がロープで縛られて、木に吊るされていました。
「だけど、私が望んだことだから」
「……帰りたくないの?」
「できれば」
「――分かった」
意を決したかのように、彼は私を見て頷きました。
「君のこと、埋めてあげる」
***
「――だけど、一つだけわからないことがあるんだ」
私を埋めながら、彼は私に語り掛けてきました。
「僕、霊感なんかないんだ」
慣れた手つきで、土を掘り起こす作業をこなしていく彼。
「なのに、僕はなんで君と会話できたのかな?」
「分からない」
埋められていくことに安心感を覚えながら、
「分からないけど、一つだけ確かなことがあるの」
「なに?」
「もし私を見ても、あなたは私を軽蔑しないでしょう?」
ピタリと彼の作業が止まりました。
「……当たり前だよ」
「だから、私は埋めてもらいたかったの。他でもないあなたに」
「……」
「私のこと、誰にも言わないで」
「言わないよ」
彼は断言しました。
「このことは、僕が墓場まで守るから」
少しずつ、死体の私は見えなくなっていきました。
重荷を背負わせるのは心苦しくありましたが。
彼ならば、きっとこの約束を突き通してくれることでしょう。
***
そして、彼は私を埋めた後、私の居場所を警察に伝えました。
だけど、誰も彼を信じませんでした。
埋めたのは私ではなく、『人形』だと思われてしまったからでした。(了)