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おはよう(仮)Ver.1.1

作者: アンパン

ノベルゲームのシナリオを書いています。

よければ感想をお願いします。

~背景・教室~

英語教師「こんな問題も解けんのか、吉野!」

英語教師の怒鳴り声が教室に鳴り響く。

僕、吉野よしの 幸介こうすけは、何も言えずに立ったまま縮こまっていた。

英語教師「じゃあ代わりに立華、この問題に答えなさい」

灯「はい」

灯「Livinig on an desert island may bemore amusing thanliving in Tokyo.」

英語教師「Excellent! 完璧な回答だ。それに引き換え吉野は・・・まったく、立華を見習え!」

幸介「・・・すみません」

周りの生徒たちがクスクスと笑っているのが聞こえる。

それを聞いて僕は更に鬱屈とした気持ちになった。

授業は嫌いだ。出来のいい奴と悪い奴が比較される。僕とアイツ、立華たちばな あかりのように。


~背景・暗転~

灯とは幼馴染で、昔はよく一緒になって遊んでいた。当時から活発だった灯の後ろにいつもくっついて歩いていた。

だがいつしか、何でもできる灯に比べて何をやっても上手くできない僕は、次第に灯に劣等感を抱きはじめた。

比較されることも多くなり、劣等感はどんどん膨れ上がっていった。もともと内気な性格だったので、だんだん人と会話もしなくなった。中学に上がる頃には、灯とも距離を取るようになり、僕に友達と呼べる人はいなくなっていた。


~背景・屋上~

そして、今に至る。

高校2年生になっても友達のいない僕は、今日も人の来ない屋上でお昼を食べに来ていた。

幸介「今日も誰もいないな・・・」

確認し、日陰になっている目立たない場所に腰を下ろす。

幸介「はぁ・・・」

深いため息と共にさっきの授業を思い出す。

怒鳴りつける教師、嘲笑するクラスメイト、そして____

灯「こんなところにいたんだー」

幸介「うぇっ!?」

突然の声にびくっと肩が跳ねる。

振り向くと灯が不機嫌そうな顔をして立っていた。

灯「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

さっきまで頭に思い描いていた当人が急に現れたので、大げさに驚いてしまった。

幸介「ぇ、ぁ、う、うん・・・」

久しぶりの人との会話に変に緊張してしまい、どもってしまう。

灯「お昼いつもいないからどこで食べてるんだろうって思ってたら・・・」

灯「いつもこんなところで一人で食べてるの?」

幸介「う、うん」

灯「そっかぁ・・・ね、一緒に食べていい?」

幸介「え、あ、うん」

灯「ありがとっ」

嬉しそうに笑う灯に思わずドキッとしてしまい、慌てて顔を逸らす。

灯は僕の隣にストンと腰を下ろすと、鞄から黄色い包みのお弁当箱を取り出した。

ちょっと羨ましい。僕の両親は共働きで朝早くから仕事なので、お弁当ではなく昼食代が置いてあるだけだった。今日も僕はコンビニの弁当だ。

灯がお弁当の蓋を開け始めたので、僕も慌ててコンビニ弁当を取り出す。

灯「いただきます」

幸介「ぃ、いただきます・・・」

いつもは言わないのについつられて言ってしまった。

灯「こうして二人で話すの久しぶりだね」

幸介「そ、そうだね・・・」

灯「幸介全然話してくれなくなったから、嫌われちゃったのかと思ってた」

幸介「そ、そんなこと・・・」

灯のことは嫌いじゃない。だけど、一緒にいるとどうしようもなく自分が劣って見えて、情けなくなる。

実際、劣っているのだ。僕は頭も悪い、運動もできない、友達もいない。何もかもが劣っている。

こんな僕に、優秀な灯の隣にいる資格なんて・・・。

灯「こらっ」

ペシッ!

幸介「うわっ」

突然、灯に小突かれた。

灯「ネガティブなこと考えてるでしょ」

幸介「な、なんで」

灯「幼馴染なんだから分かるよ。幸介って自分のこと卑下しがちだから」

灯「そういう事考えてるときの顔してた」

幸介「・・・・・・」

見抜かれてた・・・。

灯「ねえ、幸介はもっと自分に自信をもっていいと思うよ? いいところ沢山あるもん」

灯「君は自分で思ってる以上にやればできる子なんだから」

幸介「でも、僕勉強も運動もできないし、友達だっていない。今日の授業だって・・・」

灯「あ~、あの先生短気なことで有名だし、仕方ないよ」

灯「それにさ、一回失敗しただけじゃん! 次上手くやればいいよ!」

灯「勉強も、友達作りも」

幸介「でも・・・」

灯「私が協力するからさ!」

幸介「えっ?」

灯「幸介が皆と仲良くなれるように、私が手助けするからさ」

灯「私と一緒に、頑張ろ?」

幸介「・・・・・・」

何故だろう。その言葉は、とても頼もしく聞こえた。

こんな取柄のかけらもない僕でも、灯とならやり遂げられる。そんな気がした。

奇妙な安心感に流されるように、僕は頷いていた。


~背景・教室~

午後の授業で、僕は頷いてしまったことを激しく後悔していた。

授業開始前、僕は灯にあるミッションを言い渡された。


~背景・廊下~

灯「これからは授業で必ず1回は挙手すること!」

幸介「えっ」

灯「問題はパーフェクトに答えられるようになろう!」

幸介「えっ」

灯「まぁ最初からパーフェクトは無理だろうから次の授業の予習しようか。私が教えるから」

灯「あ、ちゃんとパーフェクトに答えられなかったら宿題出すからね」

幸介「えっ」


~背景・教室~

幸介(やばい、緊張して予習した内容覚えてない)

幸介(挙手しないでやり過ごすか? でもそうしたら宿題確定だ)

幸介(どうする・・・一か八か、当てずっぽうで答えるか?)

生物教師「__細胞内でエネルギーの合成をしている器官はなんでしょう。分かる人挙手!」

シーン・・・。

幸介(くそっ、誰も挙手しない! この空気で挙手したら絶対目立つ!)

幸介でも・・・

灯「じぃ~~・・・」

幸介(めっちゃ見てるっ。これはもう行くしか無い!)

幸介「は、はいっ」

生物教師「お、吉野が手を挙げるなんて珍しいな。じゃあ答えてみろ」

幸介「え、えっとぉ・・・」

必死に記憶を探る。灯に教えてもらったのは確か、ドリアみたいな名前だったような・・・。

幸介(・・・よしっ!)

幸介「ミントコーンドリアです!」

・・・一瞬で静まり返る教室。

生物教師「・・・お前は何を言ってるんだ。答えはミトコンドリアだ」

教室のあちこちからクスクス笑いが聞こえる。

幸介「す、すみません・・・」

僕は顔を真っ赤にして席に着いた。


~背景・廊下~

灯「ま、まぁ、ドンマイドンマイ! 次頑張ろ!」

灯「頑張れば絶対結果はついてくるから!」

幸介「・・・うん」

それから僕は様々なミッションに挑戦させられた。


~背景・廊下~

翌日朝。

灯「挨拶はコミュニケーションの基本! そして第一歩だよ!」

灯「大きな声で挨拶しよう! 声が小さかったらペナルティ!」

幸介「わ、わかったよ・・・」

幸介(昨日の宿題ハンパなかったからな・・・やるしかない)

ガララッ。

~背景・教室~

幸介「お、おはようございまひゅ!!」

緊張して嚙んでしまった・・・。

クラスメイト「・・・・・・」

シーン・・・。

幸介(ああ、帰りたい・・・)

涙目になりかけていると助け船が来てくれた。

灯「おはよう!」

クラスメイト「おはよ~」

灯は挨拶一つでクラスに溶け込んでいった。

助かりはしたが、なんだか複雑な気持ちでぼくは席に向かったのだった。


~背景・体育館~

灯「体育のバスケでみんなに貢献すれば好印象間違いなしだよ!」

灯「一回は必ずパスをもらう事! 出来なかったらペナルティね」

幸介「うぅ、了解」

勘弁してほしい・・・。

バスケの試合が始まる。

僕は皆の素早い動きに目を回しながらも、何とかついていこうとする。

味方チームのクラスメイトにディフェンスが張り付いた。

幸介(今だっ!)

幸介「パ、パス!」

クラスメイトは焦っていたのか、こちらを見ずにパスを投げてきた。

結構なスピードで。

当然取れるはずもなく、僕は顔面にボールを受けて鼻血を出し、保健室へ連れていかれたのだった。

授業の後、灯がお見舞いに来てくれ、一応パスをもらおうとした、という事でペナルティは免除となった。



~背景・教室~

昼休み。

灯「思い切ってお昼に誰か誘ってみよう!」

幸介「えぇ・・・」

灯「こういうのはきっかけさえ作れれば自然と仲良くなれるんだよ!」

灯「さ、あの子たちに声かけてきて!」

どんっ、と灯に背中を押される。

幸介(あの子たちって、よりによって女子かよぉ~)

幸介(絶対キモがられるだろ! こればっかりは・・・)

灯「あ、声かけなかったらぺナだよ?」

幸介「・・・・・・」

幸介(今日は課題が多かったからぺナは避けたい・・・)

幸介(あーもう破れかぶれだ、やってやるっ!)

幸介「あ、あのぉ~」

女子A「?」

幸介「え、えっとですね。そのぉ、あの」

女子B「あの、何ですか?」

幸介「あ、あのっ、い、い、一緒に」

幸介「お、おお昼、をですね、えっとぉ、そのぉ・・・」

女子A「え、何コイツ、キモ」

幸介「・・・っ」

女子B「ねぇ行こう。なんか意味わかんない」

女子たちは逃げるように去っていった。

幸介「・・・・・・」

灯「・・・屋上、行こっか」

幸介「・・・うん」


~背景・屋上~

灯「今日は頑張ったね! ご褒美に卵焼きあげる」

幸介「あ、ありがとう」

灯「幸介は卵焼き好きだったよね~」

幸介「うん・・・」

幸介「あのさ・・・」

灯「ん?」

幸介「僕なんかと一緒に食べてていいの? いつも友達と食べてるんでしょ?」

幸介「友達と一緒に食べなよ。昼まで僕に構わなくたって・・・」

灯「私が好きで来てるの。それに私たちだって友達でしょ?」

幸介「えっ?」

灯「昔はずっと一緒にいたじゃん。そりゃ、少しの間疎遠になっちゃったけどさ」

灯「幸介とはまた昔みたいに仲良くできたらなって、そう思ってるんだ」

灯「幸介は、どう思ってるの?」

幸介「・・・僕は」

僕はどう思ってるんだろう? 灯とまた友達に戻りたいのだろうか?

どうしようもなく劣等感を感じさせる彼女に、そばに居て欲しいと? 

幸介(分からない・・・だけど)

幸介「・・・仲良くしたい、って思ってるよ」

灯「ほんと?」

幸介「うん」

灯「そっかぁ、良かった~」

灯「嫌だって言われたらどうしようかと思ったよ」

そう言って灯は嬉しそうに笑う。

この笑顔は曇らせたくないな、と思った。

それだけは確かな本心だった。


~背景・暗転~

それからしばらく、僕の友達作りは続いた。


~背景・廊下~

一週間後、朝。

幸介(何だかんだ友達作りを始めて一週間ちょっとか・・・)

結局、まだ友達は出来てない。

でも、灯と一緒にいるのは楽しいし、続けていればきっと結果はついてくる。

そう思えてきていた。

幸介(よし、今日もいっちょやりますかっ)

ガララッ。

~背景・教室~

幸介「お、おはよう!」

クラスメイト「・・・・・・」

シーン・・・。

幸介(相変わらずか・・・。そろそろ挨拶返してくれてもいいのに)

どことなく冷たい空気に身をすくめながら自分の席に向かう。

席に着こうと椅子を引くと、机の中からくしゃくしゃに丸められた紙が落ちた。

幸介(なんだ?)

紙を拾い上げ、広げてみる。

「キモい、死ね」

・・・なんだ、これは。

机の中を見てみると、他にも紙があった。

「お前最近うざいんだよ」

「調子乗んなカス」

「出しゃばってんじゃねぇよ」

こんなことがびっしりと書いてあった。

ショックで足が震える。

その場で固まって動けずにいると、後ろのほうから声が聞こえた。

女子A「ちょ、あいつ動かないんだけど、うける~」

女子B「マジいい気味だよねー。調子こいてんじゃねぇっつーの」

女子A「お?なんか震えてね?泣いてんのかよアイツ」

女子B「はぁ?キモいんですけど。小学生かよ」

あの時話しかけた女子たちだ。他にもチラホラと笑い声が聞こえる。

もう耐えられなかった。

僕は走って教室から逃げ出した。

灯「あ、幸介おはよ__」

灯とすれ違ったが無視して走った。


~背景・暗転~

もう誰も信じられない。

僕が今までやってきたことは全部無駄だったんだ。

少しずつ良くなっていくと思ってたけど、そんなことない。

そもそも僕なんか出しゃばっていいような人間じゃなかったんだ。

そんなことはもうずっと前から分かっていたじゃないか。

僕が馬鹿だった。灯を信じたばっかりに。

こんなことになるなら、ずっと独りの方が良かった。


~背景・校門~

幸介「ちくしょう・・・」

涙がこぼれる。悲しくて、悔しくて、情けなくて。

幸介(もう、帰ろう・・・)

校門を出ようと足を進めた。その時。

灯「幸介!」

声に振り向くと、灯が息を切らせて膝に手をついていた。

走って追いかけてきたのだろう。

灯「どこ行くの? 授業始まるよ!」

幸介「・・・ほっとけよ」

灯「ほっとける訳ないでしょ! ほら、教室戻るよ!」

幸介「ほっとけって言ってるだろ!!」

教室に戻るという言葉に、思わず強く言い返してしまった。

灯「幸介? ・・・泣いてるの?」

幸介「・・・っ」

見られたくなくて、顔を背ける。

灯「何があったの? 教えて。私、幸介の力になりたいの」

灯「今までだって助けてあげたでしょ? だから今度も私が助けてあげるから、ね?」

幸介(助けてあげる、か・・・)

幸介(こいつも、結局は僕のことを見下してたんだな・・・)

幸介「もういい、放っておいてくれよ・・・」

灯「待ってよ! 幸す__」

幸介「善人面するなよ! どうせお前も、僕の事陰で笑ってたんだろ!!」

灯「っ!!」

灯はショックを受けたような顔をした。

そんな顔を見て、心がチクりと痛む。

僕はその場から逃げ出した。灯はもう追ってこなかった。


~背景・自室~

僕は家に帰ると、自室に閉じ籠った。

布団を被り、ひたすら泣き続けた。

悔しさや悲しみを、全て吐き出したかった・・・。


~背景・暗転~

翌日になっても僕は学校に行く気になれず、部屋に閉じ籠っていた。

両親は心配したが、無理に連れ出すようなことはしなかった。

そしてそのままずるずると、僕は不登校になっていった。

部屋に籠り、ネットやゲームばかりしていた。何かしていないと、あの日のことを思い出してしまうのだ。

だが寝るときだけはどうしても思い出してしまう。夢にすら出てくる。

紙に書かれた悪口、わざとらしい陰口、嘲笑、嘲笑、クラスメイトの、灯の、嘲笑。

あの日から眠ることが怖い。

だから僕はなるべく寝ないように、ネットやゲームに逃げ込んだ。出来るだけ起きていられるように。思い出さないように。

ちょくちょく灯は家に来た。だが、絶対に部屋には近づけさせなかった。

あんな事を言ってしまった手前、合わせる顔がないし、何より会うのが怖かった。

夢に出てくる灯は僕を嘲笑しているか、別れ際のショックを受けた表情で僕を見ている。

僕に、灯の顔を見る勇気は無かった。


~背景・自室~

不登校になってから、一か月ほど経ったある日。部屋をノックする音で目が覚めた。

母「幸介、ちょっと話があるんだけど、入っていい?」

幸介(なんだよ、こんな朝っぱらから・・・ダルい)

母「嫌ならそのままでもいいから聞いてちょうだい。あのね・・・」

母「灯ちゃんが、事故に遭ったって」

幸介「・・・・・・えっ?」

母さんの言っていることが理解できない。母さんは今何て言った?

灯が、事故に遭ったって? 何を言ってるんだ?

母「車に撥ねられて意識不明の重体だって。今は、総合病院で入院中らしいわ」

母「事故に遭ったのは昨日、うちの近くの大通りで・・・」

母「・・・ノートを、届けに来てくれてたの」

幸介(・・・ノート?)

母「あの子、毎週うちに授業のノートを渡しに来てくれてたのよ」

母「幸介が勉強に追いつけるようにって。だけど幸介には自分の手で渡したいって言って、いつも持ち帰っていたわ」

母「きっと昨日も、来てくれるつもりだったんでしょうね・・・」

母「ねぇ、幸介。灯ちゃんに会ってきたら?」

母「あなたの事、誰よりも気にかけてくれてたのは灯ちゃんよ」

母「今からでも、顔を見せに行ってあげなさい」

幸介「・・・うん」

幸介「行くよ」


~背景・暗転~

僕は混乱していた。

正直、何が起きたのか理解できていない。

だから、この目で直接確かめたかった。


~背景・病院~

総合病院は家からそう遠くない場所にある。

受付に行き、病室の番号を聞く。


~背景・病院廊下~

幸介(ここが灯の病室・・・)

病室の前まで来た僕は、ここに来て怖気づいていた。

幸介(顔を見るのが、怖い・・・)

幸介(だけど、確かめなきゃ)

恐る恐る、扉を開ける。


~病室~

真っ白い部屋。その右手に白いベッドがある。

ゆっくりとそこに近づく。

ピッ、ピッ、という音が一定間隔で鳴り続けている。

ベッドに近づき、わざと逸らしていた目線をベッドの頭の方に向ける。

そこに横たわっていたのは、紛れもなく灯本人だった。

体中に管をつけて、口元には酸素マスク。

____本当に、灯が、事故に・・・。

それ以上は直視出来なかった。胸が苦しくなる。

逃れるように辺りを見渡すと、一冊のノートが目に入った。

幸介(これが母さんの言っていたノート・・・)

それを手に取り、開く。

そこには、授業の内容がびっしり書かれていた。

しかも細かく解説も書かれているので、文字量が物凄いことになっている。

幸介「・・・これじゃあ、逆に解り辛いよ」

完璧だと思っていた灯のちょっとした欠点を見つけ、思わず苦笑する。

ふと、折り目のついたページを発見した。

そのページを開いてみる。

「幸介、嫌がらせに気づけなくてごめんね。

幸介の気持ち、分かってあげられなくてごめんね。

嫌だったよね、いきなりあんな事やらされて。

私のせいで沢山迷惑かけたね。ごめんね。

ただ、昔みたいにやり直したかっただけなんだ。

本当にごめんなさい」

ノートにぽたぽたと涙が落ちた。

幸介(__違う、灯のせいじゃない。僕が悪いんだ)

今更実感する。

幸介(僕がいつまでも卑屈だから。自分に自信がないのを灯のせいにして逃げていた僕が悪いんだ)

灯が、居なくなってしまうかもしれない事を。

幸介(ねぇ、あの時傷つけちゃったこと謝るから。今までの事全部謝るから。

だから目を覚ましてよ)

もう、目を覚まさないかもしれないという事を。

幸介(これからはちゃんと勉強もする、運動も、友達だって頑張って作るからさ)

幸介(ねぇ、起きてよ。起きてってばっ)

幸介「灯ぃ・・・」

僕は声を上げて泣いた。涙が枯れるまで、ずっと。


~背景・暗転~

その日から、僕は再び学校に通い始めた。

最初は陰でいろいろ言われたけど、もうあんな嫌がらせはされなかった。

後で灯の友達に聞いたのだが、どうやら灯が主犯格の生徒を上手く丸め込んだらしい。さすがとしか言いようがない。

その効果なのか、陰口は2,3日で聞こえなくなった。

なんだか灯に守られてるみたいで、ちょっと恥ずかしかった。

勉強の方は自分なりに頑張っている。灯のノートのおかげで何とかついていけてる。

運動は体育でしかやってないが、それでも一回一回を真剣に取り組むようになった。

友達の方は・・・正直あまり上手くいってない。やっぱり時間の溝を埋めるのは簡単じゃない。

でも・・・。


~背景・教室~

ガララッ

幸介「おはよう!」

クラスメイト「おはよー」

挨拶は返してくれるようになった。

灯の友達「おはよう、幸介君」

幸介「!、おはよう!」

少しづつ、前進していた。


~背景・暗転~

そして、僕には一つ習慣ができた。


~背景・病室~

幸介「やぁ、灯。今日はちょっと良いことがあったんだ」

幸介「君の友達が僕に挨拶してくれたんだ。しかも名指しで! 」

僕は毎日、灯へその日の成果を報告しに来る。

あの日から欠かさずにやっている事だ。

幸介「少しづつだけど、みんなとの距離が縮まってきてる気がするよ」

幸介「それもこれも、全部君のおかげだよ」

幸介「君は前に言ってたよね。きっかけがあれば仲良くなれるって」

幸介「君がきっかけをくれたおかげで、みんなと仲良くなれそうだよ」

幸介「まぁ、こんな大げさなきっかけじゃなくても良かったんだけどね」

幸介「・・・でも」

幸介「僕が一番仲良くなりたかったのは・・・君なんだよ」

幸介「また、一緒に遊ぼうよ。一緒にご飯食べようよ」

幸介「昔みたいにさ・・・」

幸介「ねぇ・・・」

こらえきれなかった涙が、ぽつぽつと落ちた。

嗚咽を漏らしそうになって、灯の手をギュッと握る。

するとかすかに、その手を握り返してくる感触があった。

幸介「・・・?」

不思議に思い、顔を上げる。

今までずっと開くことのなかったその瞼が、ゆっくりと開いていく。

僕は驚き、目を見開く。

彼女は眩しそうに瞬きすると、こちらに目を向ける。

僕も彼女と視線を合わせる。

彼女は、灯はゆっくりと微笑んだ。

僕も、涙を流しながら微笑み返す。

そうだ、まずは挨拶からしよう。コミュニケーションの基本だからな。

大きく息を吸い込み、声に出す。いつものあの言葉を。

僕と灯の第一歩は、ここから始まる。


~END~

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