番外編大喜利!
<1>頑張れジャンくん
ある昼下がりの事でございます。休憩時間が一緒になったフランツは、恋人のジョーと政務部のカフェテリアで昼食をとっておりました。だが最近彼には困ったことがあるようで……
「ジョー。最近困ったことがある」
「ん?」
「常につきまとわれているんだ」
「ええっ! それってストーカー!? またまた何かに狙われてるの?」
「……常に柱の陰とか、曲がり角の先に、いるんだ。ずっと見られてる」
フランツはそういうと、ジョーに顎をしゃくって見せたんでございます。するとそこには、一生懸命に紙に書き込む男の姿がございます。
「……あ~、メモってるメモってる……」
「……メモられてるんだ……」
「もしかしてつきまとわれてるのって、あれ?」
「そう。あれ」
しみじみとため息をついたフランツに、頭を掻きながらジョーが苦笑いを浮かべたんでありますな。そこにいたのは顔見知りも顔見知りなもので。
「あの事件以来さ、ファンになっちゃったんだってさ。精霊使いのフランツ、格好いいもんね。へへ。私も格好良くて大好き~」
「それはいいから。お願いだ。やめさせて」
「ん~無理。だって別れてからもずっと私を守ってた人だもん。しかも遊撃隊でも一番粘り強いよ」
「頼むよ、ジョー……」
「いやいや。無理だって。そうだ。いっそのこと宰相秘書官室の警護にしたら?」
「……僕は政務部。彼の所属は軍部」
「あはは。そりゃそうだね」
「何で王国の若手剣士ナンバー一、二がまとわりつくんだよ……」
「まとわりついてないじゃん。だって私は恋人だもんね~」
「もう一人の方だよ」
フランツが頭を抱える先にいるのは、ジョーに思いを寄せていたジャン・ベイルくんでありました。その目はフランツへの憧れできらきらと輝いております。がんばれフランツ。リッツが育て上げた剣士は、師匠に似てしつこいぞ。
「勘弁してくれ……」
<2>みんなのわんこ
え~、ガールズトークっていうのは女性が二人集まれば始まるもんでして、その日もクレイトン邸の談話室で、久し振りにガールズトークを繰り広げるベテランの人妻アンナと新妻ジョーの姿がありました。お互いの旦那の自慢やら、文句やらを下ネタまで織り交ぜてひとしきり話したあとで、お菓子なんぞをつまみながらなにげなーく、ジョーが口にした一言から始まったのでございます。
「あのさぁ、アンナ」
「なあに?」
「師匠ってさ、ドMだよね?」
「……? なにそれ」
「だってさ、陛下に嫌味言われたってからかわれたって、抓りあげられたって陛下が大好きじゃない?」
「うん。そうだね」
「でさ、パトリシア様に馬鹿にされて殴られて、でもパトリシア様が好きだよね?」
「うん」
「その上、アンナに水の球ぶつけられても、怒られても何をされても、アンナに絶対服従だよね?」
「え~、そうかなぁ?」
まあやってる本人に、得てして自覚なんて者は無いんでございまして。
「きっといじめられるの大好きだよ、師匠。絶対にいじめられて快感を感じてると見た!」
なんて事を弟子なのにいいだしちまいました。でもアンナは全く動じない。さすがはアンナです。
「そのドMって分かんないけど、リッツにぴったりの言葉をこの間見つけちゃった」
「え~? 何々?」
「あのね、愛玩動物。みんなにコロコロって、遊ばれてるの」
「みんなにコロコロ……弄ばれてって、総受?」
思わず妄想を呟いちまったジョーですが、そんなことは、うっとりと夫を思い出すアンナの耳には、一切入りやしません。
「本当にリッツって、体は大きいけど子犬みたいで可愛いよね?」
「結局のところ、師匠って犬なんだ……」
そんな二人のいる談話室にやってきたのは、ジョーの夫に成り立てのフランツでございます。フランツは談話室に入ろうとして、入れない人を見つけました。一人しゃがみ込んで、イジイジと膝を抱えて床にのの字を書いております。
「なにしてんの、リッツ?」
「……どうせ俺は……ドMで総受の犬だよ……」
「?」
<3>ひみつのアンナちゃん
人っていうものは、誰にでも自分では分からない事っていうものがございます。特にこのちょっと世間よりもずれている元純真無垢な人妻は、色々あるようでして……。
「アンナってさぁ、絶対普通の人よりも、相当にエロいよね?」
今日もクレイトン邸の談話室でガールズトークを繰り広げている人妻たちが、そんなあられもない話をしております。
「え……?」
「だって普通に師匠とのこと話すけど、それのほとんどが十八禁だよ?」
「ええっ! うそうそ、そんなことないよぉ、普通だよ!」
「普通じゃないって。フランツにそんなことされたこと無いよ」
「ええっ!」
「気付いてなかったの?」
「気付かないよ! だってそれぐらい、いつもされてるから、普通だって思ってたもん!」
「……仕方ないか。最初の男が娼館の遊び人だった師匠で、その師匠の妻をもう長いことやってるんだもん。普通の人の感覚は麻痺しちゃうよねぇ」
「え、ええっ?」
「絶対師匠以外の男じゃ、もの足りない体になってるよ、アンナ。色々激しいことされてるもんね」
「ちょっとまって! どの辺が普通じゃないの? どの辺までが普通なの!?」
「どのへんって……」
「○○で○○とかは普通? ××で×××なのはおかしいの?」
「あ、アンナ、アンナ!」
「でもリッツはいつも○○○で○○してくれるし!あ、じゃあ△△△を△するのは普通なの!? ××されるのはすごく好きなんだけど!」
「お願い、やめてアンナ! アンナのイメージが壊れまくっちゃって、作者も困ってるよ!」
「だってだって、自分が普通じゃないぐらいエロいなんて、思った事なかったんだもん! これが普通なんだもん!」
「……わっるい男だな~師匠は……」
そんな二人のいる談話室にやってきたのは、ジョーの夫に成り立てのフランツでございます。フランツは談話室に入ろうとして、入れない人を見つけました。一人しゃがみ込んで、イジイジと膝を抱えて床にのの字を書いております。
「なにしてんの、リッツ?」
「どうせ俺は、純真無垢な奴を思いっきりエロくした男だよ」
「?」
「だけど……それがいいんだよなぁ……」
「……鼻血……何とかしたら?」
<4>天まで届け
人は皆死んだら空の上にいくわけですが、心の中にずっと住んでいる人もいるわけでございます。ですが思いが強すぎるのも大変なことでございまして。
「さてと、ここからどういう作戦をとるかな……」
『そこはこうしたらいいんじゃないか』
「この場合は、こうした方がいいか、ああしたほうがいいのか……」
『当然、こうだろう』
「今日の夕食はグラタンかドリアか、迷うな」
『主食が入った方がバランスがいい。ドリアだな』
「いってぇ~。誰だ、こんなところに荷物おいといた奴! って俺か!」
『常に片付けておけ、馬鹿が』
「うわ、紙ねえじゃん! トイレに紙入れるの忘れてた!」
『自業自得だな。常識として無くなったら使い切った奴が入れるんだ』
「………………」
『何か文句があるか、リッツ?』
「アンナ、アンナ、アンナ!」
「どうしたの、リッツ?」
「俺、監視されてる! エドに監視されてる!」
「はぁ?」
『馬鹿め。監視などしていないぞ。見守ってやってるんだ。ありがたく思え』
「これ監視じゃんか! 遠い世界から見守るって、もっと慎ましいんじゃねえのかよ!」
『はっはっはっ。体がないというのも便利だな。どんな些細なことでも注意してやれるぞ』
「いやだぁ~」
「リッツ、まだエドさんが死んだ痛手から立ち直ってないんだね……」
「ちが~う! 助けてくれ、アンナ~」
え~、お時間が来ましたので本日の大喜利はここまでにしとうございます。
またどこかででお会いしましょう。
それではみなさまごきげんよう!
『エピローグ、もしくはプロローグ』につづく、エドの死から3年後の物語があるのですが、まだ完結していません。
とあるラノベの賞に応募して、一応、一次選考に通った1冊読みきりになっています。
イベント発行予定もないので、週一ペースで掲載する予定です。
これで呑気な冒険者シリーズは、おしまいです。
長い物語にお付き合いしていただき、本当にありがとうございました。
イベントでは、たった20~40冊しか発行していない弱小個人サークルでしたので、こんなにたくさんの皆様に読んでいただけて、本当に嬉しかったです。
本当に本当に、ありがとうございました❗




