きっと一緒にいられない
「とりあえず全部白状してくれ」
白い豪華客船の一室で、俺は腕を組んで立っていた。
まひるは手錠を二つはめられ、首輪につながれている。
鞘さんはその後ろに控えて、二人ともうなだれていた。
まひるは俺に狂気を向けた。
『鞘』であるならば、それは絶対に起こらない。
これではっきりした、まひるのうそ。
「鞘…いいよ、話して」
「よろしいのですか、まひる様」
鞘さんはうなだれたまひるを覗き込むように呟く
まひるの声は、すっかり涙声だった。
「もう…さい君に嘘を吐きたくないよ…」
よく磨かれたフローリングに、まひるの涙が滴り落ちていく。細い肩がふるえている。
でも俺は、容赦したくなかった。
「…では。
確かに私たちは嘘を吐きました。
道祖土様は『鞘』ではありません。『鞘』は…名乗っている私でございました」
鞘さんは、自分の名を捨てていた。それほど忠誠心深く彼女に仕えていたのだ。
「華童子の『鞘』は華童子と婚姻し子を産まねばなりません。
しかし私は、老爺です。
いくらなんでも、まひる様と契りを交わす気にはなりませんし、まひる様を傷つけるのも恐れ多い身です。
なにより…道祖土様は覚えておられないかと思いますが、
まひる様は道祖土様のことを大変慕っておられたので、今回のことに私も賛同いたしました。
しかし、ごく限られた関係者しかその事実は出回っておりません。
…道祖土様はどなたからそのことを?」
ひっかかった。
「義理の妹とかいう…ゆうっていう女の子からです。反対側の黒船に乗っていましたよ…。
―――それより、
さっきの言い方だと、まるで俺がまひるのことを覚えていないようにとれたんですけど…
俺ってまひると前にどこかで会ったんですか?」
「会ってない!!」
俺の声を遮ったのはまひる。
額にうっすらと汗がにじんでいる。
「全然会ってない、会ったこともない!!
鞘が間違えただけだから、思い出さなくていい。
思い出しちゃだめだ!」
必死に、まひるは俺の右腕を掴んでいる。
泣きだしそうになっている表情に、圧されて俺は頷く。
安心したように肩で息を吐いて、まひるは顔をあげた。
「…それじゃ、もうバレちゃったから残念だけど。
さい君、帰るでしょ?」
それってつまり。
「無理やりだったし、ごめんなのだよ。すぐ船を出すから」
まひるは肩をすくめて苦笑いした。
万歳、俺、ようやく帰れるんだー!!
…っていう気は、なんだかしない。
アレ、いいのかな…っていう、気持ち。
でもまひるの言う通り、俺はまひるの支えにはなれないわけだし。
つか俺、告白の途中で拉致られたわけだしな…。
「準備は五分もあればできますよ。
名残惜しいですが、帰還船に乗船ください」
鞘さんの笑顔、まひるの苦笑い。
俺はその二人を背にして、帰還船という少し小型の船に誘導された。