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少しだけでいいの

黒船に乗り混んだ後に、すぐさま少女とは別行動を強いられ、有無を言わさず女性陣に身ぐるみはがされて湯あみをさせられました。

今では体にいいにおいのする粉みたいなのをかけられ、来たこともないような礼服に身を包んで座らされています。


……畳に。

燕尾服に畳って…和洋折衷過ぎる。

呟く俺に、さきの少女、ゆうちゃんが艶やかな着物姿で現れた。

しなやかな黒髪を、包むような薄紫の花柄。

藤っていう花だったろうか。


「悪くありませんね、これから普段着にした方が良いですよ。」


燕尾服が普段着なんて生活、嫌だ。

舐めるような視線で、ゆうちゃんは俺を見る。

なんだか恥ずかしい気分。


「さて、興味があるようですね、義理の姉のことについて。

まぁそうでしょう。

やりたくもないことをやらされ、

やらなくてもいいことを…

あなたは今、強いられているのですから。」


首をかしげる。


「いや、やらなくてもいいってわけじゃないだろ

俺はまひるの鞘なんだからこうして…」


「見かけによらず頭が悪いんですね。」


斬って捨てるような言い方だった。

俺は思わず言葉を呑みこんでしまう。

ゆうちゃんは俺の様子を見て、さらに嘲る。


「ほほ。騙されていると、あの華童子に?

これは愉快滑稽面白きこと。」


小学生とは思えない、その笑い方。

見下されている感じだった。


「いいですね、あなた。とてもくだらないです。

特別に教えてあげましょう、華童子の『嘘』を。」


うそ。

ゆうは語った、このすべてのからくりを。




夕刻。俺は黒船から降ろされ、一人浜辺に立っていた。

海の風は少し肌寒い。

遠くで俺の名を呼ぶ声がする。


「さいくーん!どこー!?」


丘のほうに視線を向けると、夕焼け色のドレスを着たまひるが立っていた。

長い髪は夕焼けに透けて輝き、オレンジのドレスは海風にはためいて、まるで人間に見えなかった。

ぼうっとする俺の頭に、そんな感想が浮かんだ。

まひるは俺に気づくと、一直線に俺のほうに駈けて来た。

途中ですっ転んで、砂浜に顔をうずめたが、すぐにこちらに向かってくる。満面の笑みで。

犬みたいだな。


「さい君!どうしてこっち側にいたの?

まひるの砂浜にいないとだめだよ」


危ないよ、という声は波音にかき消された。

俺は黙ってまひるを見つめた。

その白い頬に、手を触れる。やわらかく、温かかった。


「さ、さい君?」


頬にかかる髪を耳の後ろにかけてやる。

まひるは不思議そうに不安そうに、焦ったように苦笑いをした。

俺はそれに構わず、黙ってまひるの頬をなでる。


「…め、だよ…」


まひるの瞳が、宙に一点に絞られる。

心を失っていくのが分かった。

手錠をかけられた腕が、ギシギシと音を立て手錠を揺らす。

紅い唇から、一滴の唾液が、垂れる。

その唇からのぞく、白い歯が、俺の指に伸びる。


「なりませんっ!!」


すうと瞳から引いていく、狂気。

まひるの後ろには、鞘さんが立っていた。


そう、俺は『鞘』なんかじゃなかったのだ。


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