嫌がらせとしか思えないわ……
季節はもう秋に差し掛かっていた。まだ蒸し暑い日が多いが、日に日に季節が移り変わっていくのを肌に感じる。
太陽が真上から少し落ちかけた頃、私こと花撫木麗衣は古びた二階建て木造マンションの前に立っている。
私の家というわけではない――まだ。
三日前、田舎の家に召集令が届いた、世界の二大国家の一つデミル、その田舎にある自宅は山と田んぼに囲まれたのどかで平和なところだ、空き家を改築して作られた小さな学校は全校生徒十人にもみたない人数で今年閉校した学校でもある。生徒のほとんどは近くの学校に転校をしていったのだが、なぜか私にだけ国の軍事養成学校から召集令が届いた。
「嫌がらせとしか思えないわ……」
手首を振りウィンドウを表示させる。
携帯端末としても使えるように改造したアーマーリングは麗衣の自信作だ。ウィンドウに表示された新築の高層マンションはまるで空に突き刺さるように煽られた位置から撮られており、風通しのよさそうな大きな窓が特徴で戦時中にも関わらず高層の建物を素早く作る技術はデミルの技術力の高さを象徴するかのように思える。召集令の内容によればここに住むはずだったのだが。
「っ……嫌がらせとしか思えないわ」
ここにきてもう何度目か分からないため息を漏らしながら、緩慢な動きでマンションに向かう。正面の階段の近くにあるポストには二〇三花撫木麗衣と丸みのある手書きで書かれていた。
手書きなのね……そんな言葉を飲み込みながら階段を上がる。一歩一歩踏みしめるたびに軋む音が響き、少しの不安を掻き立てる。
二〇三と書かれたドア……文字どうりドアに直接二〇三と書かれていた。突っこみなどいれないそのままドアを開ける。
マンションの見た目に比べたらといったら失礼だが、中は意外と綺麗だった。カビやほこりも一切無く清潔な状態だ。
気分がすこし高揚したのが自分でも分かる、丁寧に靴を脱ぎ中に入る、何の変哲もない1DK部屋には必要最低限の生活道具しかなかったが、一つ一つに細やかなデザインが施されておりセンスを感じる。
背負っているリュックを部屋の真ん中に投げ捨てると窓を全開にあけた、吹き抜ける風が心地よく太陽の光が少し眩しい、揺れる髪を押さえながら目の前に広がる風景を楽しむ、引越しした実感が今になって押し寄せてくる。
ピンポーン。
ふと、インターホンが鳴った。
部屋に入ってすぐにセールスや隣人とは考えにくい、ボロボロのマンションだ、きっと大家が音を聞いて尋ねてきたのだろう。
そんなことを考えながら、すこし急ぎ足で玄関に近づきドアを押し開ける。
「どちらさまです……か?」
我ながら無用心だと思った。見知らぬ土地に引越ししてきたのだ、ドアスコープで確認してからも遅くは無いはずと、そしたら居留守が使えたんだと、地元の自宅は引き戸でインターホンが鳴ったら走って開けるという動作がどうも染み付いているみたいだ。
もう一度思った。居留守が使えたんだと……。
ドアを開けたその先は、二人が横に並び土下座をしてた。肘が伸びているのは少し気になるが、まさしく土下座だった。
関わらないほうがいい、直感的に感じドアを勢いよく閉める。
激しい音と共にドアが閉まるが引く手を緩めるわけにはいかなかった。閉まると同時というには少し遅かったが、向こう側から勢いよく引っ張られる。
なんともいない不安と恐怖が押し寄せてくる。
「なんなのよ、貴方たち!」
とっさに出た言葉は激しい音にかき消される。
依然とドアは引っ張られ、ドアノブは力の逃げ先を探しているのかガタガタを震えている。
全力で引っ張っていたためあまり正確にはわからないが二十秒ほどたったころ握力がなくなってきた。手アセも酷く息も上がってきた。
「待って……おねがいだから…………」
今日は厄日なのかしら……なんて事を思いながらドアノブから手を放した
週一で更新していきます、気長に楽しんでもらえるとうれしいです。