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プロローグ


主人公:クッコ・ロコ ブルグント王国の元・第一王女、姫騎士

主人公2:パルフェクティオ・ミ・エハール 魔王軍幹部、四魔大将軍の一、リキメル地方総督、ルクドヌム大公爵、魔皓剣のエハール






今宵もまた、私の寝所にあいつがやって来る。

私の名はロコ。姫騎士プリンセスナイツクッコ=ロコだ。

ブルグント王国クッコ王家の第一王女にして、王国最強の『竜聖騎士団』を率いる騎士団長――いや、だった。


私は宛がわれた寝所の、豪奢なベッドに一人腰掛けていた。

身につけているのは慣れ親しんだ勇壮な鎧はおろか、服とも呼べぬあまりに薄い絹のネグリジェ――肌は透けて見え、秘部さえ隠せていない。どころか恥ずかしい場所を特に強調するように設えられていた。

淫らな娼婦の如き格好。女が男を喜ばすための、屈辱的な装いだった。


私は部屋に置かれた大鏡を見る。そこに映る己の姿に、恥辱と羞恥で顔が真っ赤になる。

思わず脱ぎ捨てたくなる。着ている方が恥ずかしい。裸の方が、まだましだ。

だが、私はそうすることを許されていない。


私の国は魔族に負け、滅ぼされた。国土は蹂躙され、父王は殺され、騎士団の仲間たちは戦いの中で斃れていった。

最後に、残された民草の命の保障を条件に、生き残った私は聖騎士の力を封印され、憎き魔族に体を捧げるはめになった。

私は景品だった。勝者のための景品。私の故郷ブルグント王国を攻め滅ぼした、魔族どもの玩具、惨めなトロフィーなのだ。


今の私には、何も残っていない……。誇りも力も全て奪われ、虜囚同然の身だった。あるものと言えば、母上譲りの金色の髪ぐらいのものだろうか?

私の全てを奪ったあいつ。

憎んでも憎んでも足りないあの男が、これから私の元へやってくる。


靴音。部屋のドアの向こうに気配がした。ドアが開かれ、奴が姿を現した。

――感情を排して見て、恐ろしく整った顔立ち。銀色の髪、不断の意思を感じさせる強い眉、長く伸びた鼻梁。

切れ長の目にはどこか憂いを帯びた青い瞳、右目を魔眼を埋め込んだ特徴的な仮面で覆っていた。


長身で痩せ型だがよく鍛え上げられた肉体に足は長く、古代王の彫像のように美しく均整の取れた体。その身には、歴戦の戦傷の跡が刻まれていることが両の腕から垣間見えた。

そして、圧倒的な魔の圧力と威厳――こうして武器も持たず佇んでいるだけで、一切の隙を見出せない。少しでも剣に覚えのある者ならばその実力の片鱗を感じ取るだろう。相対すれば、まともに立っていることすら困難なほどだ。

人間に似ている――でも、その肌の色だけが人族と決定的に違い、血の気の引いた肌に灰を塗したかの如く、暗青色だった。


魔族。

私の国の仇。私から全てを奪った張本人。

魔王軍、四魔大将軍『魔皓剣』パルフェクティオ・ミ・エハール。


「ごきけんよう姫君――ロコよ。なぜ我輩をそのような目で睨むか? まだ己の立場が分かっておらぬのか」


エハールは薄く笑うと、ゆったりとした足取りでこちらに向かってきた。

酷薄な表情を浮かべ、私を見下ろす。


「我輩に楯突くは良いが、民草どもがどうなっても構わぬのか?」

「……卑劣な……!」

「貴様は敗者なのだ。ふふ、さすがはブルグント王国に類稀なる美姫ありと評された美貌――怒りに染まった顔さえ、美しい」


エハールが手を伸ばし、私の顎を持ち上げた。

思わず顔に唾を吐きかけてやりたくなった。だが、私は育ちのせいかあまりそういった行為に慣れていない。行動の前に逡巡してしまう。


「無理はやめておけ。例え吐いても、純魔族たる我輩の反応速度でそのような児戯が避けれぬと思うか? 必死に唾を溜めている顔が滑稽だぞ、ククク」


すぐに看破され、私は思いつきを諦めた。そもそも下劣な輩に合わせて品のない行いをして、自らを貶める必要などないのだ。

下衆め……!

エハールが私の肩を押し、ベッドの上に倒した。自らも服の前ボタンを外し、私ににじり寄ってくる。


「諦めよ。絶望し、全てを我輩に捧げるのだ」

「くっ! 殺しなさい!」

「殺しなどせぬ。貴様は我が妻。魔王軍の中で、偉大な勝利を重ね続ける我輩に与えられた景品なのだ。たっぷりと可愛がってやろう」

「誰が、あなたなんかの妻に……! 人類は魔族なんかに負けないわ!」


負けない。たとえ身を穢されようとも、私の心は自由にさせない。

心だけは私の物だ。こんな卑怯な男なんかに、絶対に負けたりしないわ。


「ならば、その高貴な魂、どこまで続くか見せてもらおう」

「ああっ!」


エハールが凄まじい膂力で私の両手を押さえつけた。

絹のネグリジェがはだけ、おぞましい手が私の皮膚に触れる。


「めくるめく官能の世界を貴様に与えてやろう。我が魔族の房術は人間のそれとは比べものにならぬ。純潔を散らす痛みすら悦びとなるであろう。快楽に狂い、魔の虜となれ」


エハールの指先から、歪な魔力が流し込まれる。

どくん、と心臓の音が聞こえた。私の体の奥が震え熱を帯び、邪悪な魔力が私の魂を包んだのが分かった。

強制的に肉体が反応させられた。以前、私を守っていた聖霊の力は封じられ、対抗する術はなかった。

力が抜けていく。


うう、負けない、負けないわ、絶対……!


「フハハハ! 姫騎士ロコよ、誇りも魂も穢され、惨めにも肉欲に沈んでいくがいい!」

無防備となった私に、エハールが襲いかかった。

そして――






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「……」


私はベッドに横たわり、じっと天井を見つめていた。

寝転んだまま、横を見た。そこにはエハールが私に背を向け、ベッドの縁に座っていた。

私の体は綺麗なままだった。流し込まれた魔力のせいで多少汗ばんでしまったが、熱の疼きもしばらくすると消えた。


それ以上、何もなかったからだ。

私は身を起こし、一応ながら毛布で体を隠した。隠さなくてもエハールに何かをされるわけじゃないと分かってはいたが、みだりに見せたくはない。

後ろを向いたエハールは終始無言だった。それに心なしか、肩を落としているように見えた。

その背中に向かって私は言った。


「もう、諦めたらどう?」


するとエハールはがばっと唐突に振り向き、叫んだ。


「ふざけるな!! 人間の分際で我輩を侮辱するか!?」

「だって仕方がないじゃない。それに、ちょっと泣いてるし」

「ななな泣いてなどおらぬーーッ!! 一人前の男が、魔騎士の鑑たるこの我輩が、人間の女ごときの前で涙など流すものか!」


エハールが目を充血させ、子供のように手を振り回して弁明する。私からはどう見ても半泣きだった。

私は枕の下に手を伸ばし、そこから紙の束を取り出した。表紙には、『台本』と書かれていた。


「頑張ったのは分かるけど。冒頭の部分で挫折しちゃってるじゃないの……」


私は呆れながら、分厚い紙束をぱらぱらとめくり言った。

そこに書かれていたのは、まるで長編演劇さながらの台本だ。はじまりから事後まで、綿密にセリフと展開が羅列されている。

エハールが将軍の職務の間に作った手製の台本である。

よくやるものだ、と思う。努力は分かるけど。しかし体がついてこないのだ。


「もういいじゃない。出来ないことを、無理にやる必要はないと思うわ。ついでに私ももう解放してくれればもっといいわね」

「今さらそのような真似ができるかっ!! お、男の中の男であるこの我輩が、戦いに背を向けるなど……!」

「こんなの戦いじゃないわ。それに、そういう力みがいけないんだと思うけど」

「そ、そんなことは分かっている!」


私が冷静な意見を述べるが、エハールは話に耳を貸そうとしない。いつもこの調子なのだ。


「だ、大体だな。我輩は貴様など、ハナから懸想などしておらぬのだ! 行きがかり上、魔王様に貴様を下賜され、慣習上、娶らざるを得なかっただけの話で。魔将軍は陥とした国の姫を妻に迎えるなどという、魔族のしきたりは我輩が作ったわけではない!」


言い訳がましくまくし立ててくるエハール。

じゃあ初めからこんなことしなければいいのに。それを言ったら、私だって民の命を質にされて無理やり結婚させられたのだ。

それにそんな言い方はないと思う。ここまでしておいて興味がないなんて正直むかっとするし、はっきり言って傷つく。まるで私に魅力がないせいだと、責任を押し付けられている気分になる。

だからと言って仇の魔族に体を許したくはないけども。自分だって、男の役目も果たせないくせに。


「なによその言い方。勃たないのは私が理由みたいに言わないで!」

「ふ、ふん、うるさい。我輩のせいではない。お、お前が相手でなければ我輩とてちゃんと出来るのだ」

「……男の役目どころか、女の子の扱い方すら知らないのね。何が男の中の男よ! 淑女に対する礼儀すら出来なくて、騎士なんてよく名乗れるわ」

「なっ、なんだと!」

「いつも男とはかくあるべし、なんて自慢してくるくせに! 男が自分の責任に言い訳して逃げて恥ずかしくないの?」


私が言い返してやると、エハールは怒りで顔を赤黒くさせた。拳をぎりぎりと握り締め、私を殺さんばかりに睨みつけてくる。

少し言いすぎたかな?


「な、なによ。殴るって言うの? 好きにすればいいじゃない、私はどうせ、あなたの自由にできるただの景品なんだから」

「誰がそんな事をするかっ! 我輩は男だ。女子の頬を叩くなど、恥ずべき行為はせぬわ!」

「女でも私は騎士でもあるわ。剣を執って戦って、あなたと一騎打ちだってした!」

「そんな事は今関係がない!! もう黙れ!」


そう言って、エハールは再び背を向けてしまった。

分かっていた。彼は感情に任せて私に暴力なんて振るわない。

己の矜持にかけて、そんな事は絶対にしないだろう。エハールは誇り高い騎士であり騎士道に悖ることだけはしない。彼には彼のルールがあった。


私がここに来て、一年。

私達はこんな夜を幾度となく繰り返してきた。こうして背を向けて肩を落としているエハールの寂しそうな後ろ姿を、私は見慣れてしまっていた。

私の体はいまだ、純潔のままだ。


もちろん私にだって女のプライドくらいある。こんなやつに抱かれるなんて冗談じゃないけど、放置されているのも女として腹が立つ。このお馬鹿な台本を後頭部に投げつけてやりたいくらい腹が立つ。

だけどエハールが人一倍努力し苦しんでいるのも知っていた。彼はありったけの秘薬を買い集めて飲み、台本を書き、私に色んな衣装を着せて、過酷な職務の合間に健康回復のためのあらゆる手段を試み続けていた。

エハールはそれを決して口にしないが、私に付けられている従者がこっそり伝えてくれた。


私に魅力がないというのでも決してない、主は十分に執心なさっておられる――とも。それは、エハールが足繁く私の所へ通ってくるのでも分かる。


「もういいじゃない。私だってつらいわ、あなただけじゃない」

「我輩を同情する気か。男が女に同情されるなど、屈辱以外の何物でもないわ!」

「私を解放して。あなたの屈辱を終わらせるには、他に解決手段はないわ」

「そんな事が出来るなら、とうにやっておるわ!」


エハールが声を引き絞った。

私が解放される事は許されない。それは私だけでなく、エハールもまた同じだった。

私は外交材料なのだ。ブルグント王国が魔族の国に負けた時、私の身柄は民を守るための人質となった。

魔族側は体面を守るために、エハールの勝手な一存で私を解き放つわけにはいかないのだ。


「ならせめて、私の部屋に来なければいいじゃない? 夫の寵を失った貴婦人なんて宮廷じゃいくらでも見るわ。私なんか奥に仕舞って無視して、あなたも他の貴族の娘でも迎えたらどうなの」

「それは出来ぬ。誰よりも武人を自負するこの我輩に、他の腐った蛆虫どもの真似をしろと!? 女子を己の飾りの如く侍らして悦に浸る豚の真似事など、恥知らずな事が出来るか!」


これなのだ。

魔族の国に連れて来られて一年。私も魔族の文化というものを少しは学んだ。魔族社会ではただ一人以外に妻を迎えることは許されていない。

邪神崇拝の宗教上『汝、姦淫を犯すなかれ』と邪聖書に書いてあるからだ。


勿論、現実ではそうじゃない。高位の者の中には、結婚はせずとも多くの愛人を囲っている連中が大勢いる。

人間の貴族でもそうだが、魔族もまた富める男の考えは結局同じだ。私の父親もそうだった、私の母以外にも数え切れないほどの側室がいた。

しかし、エハールは違った。彼は武人であり、同時に誰よりも高潔な騎士の模範たらんとしていた。


エハールは、囲った女の数がなんだ。真の男はそんな下らぬものより戦で負った傷の数こそ誇るべきだ! と声を荒げていた。

私は、それはそれでいいと思う。その姿勢は立派だと思う。

私もまた武を志した身、傷を誇り戦場で勇敢に戦う騎士の魂とはそうした物だ。騎士とは勇気、忠誠、貞節を守り教えに従って生きる、下世話な自慢話などでは決してない。

恨みは別として、ただの武辺者同士として話せば、私は彼の言葉に共感すら出来た。それに、女の色香に迷っただらしない顔を晒しているよりは、その方がよほど男らしくて魅力的だ。


だけど……。

いざという時に閨で何もできないのは、如何なものかと思うの。

そのおかげで私は身を守れているのだけれど……。


「愛人を囲うなど冗談ではない! 大体そうしたところで何の解決にもならぬではないか。同じ事を繰り返すだけだ……」


やがてエハールは肩を落として沈んでしまった。背中から哀愁が漂う。

な、なんて暗い顔しているのかしら……。

人類最悪の敵と言われた『魔皓剣のエハール』。その名は恐怖の代名詞とまで謳われ、歴戦の強者が揃う各王国騎士団ですら、名前を聞いただけで震え上がるほどだ。


私もまた戦場で彼と相対した時は、口惜しくも恐怖で足が竦んだ。西大陸でも三指に数えられるブルグント王国の精鋭軍団が手もなくひねられ、重厚な陣容を誇る重装歩兵部隊が紙細工のように砕かれた時は悪い夢でも見ている心地になった。

そして一騎打ち――王国でも一番だった私の剣は、彼の足元すら及ばなかった。子供でも相手にするかのようにあしらわれ、助けに入った騎士団の仲間もただ一騎相手に全滅し、剣もプライドもへし折られた私は捕われてしまった。

あの時私は、膝を屈して見上げるエハールの姿が何よりも恐ろしく見えた。たった一人でも国を滅ぼすと言われる本物の魔族の力と、真の絶望を知った。


あれこそ魔の力の体現だった。勝手に体が怯えて震え、私は屈辱と恐怖で涙が止まらなかった。

そのエハールが……。

今は、私の目の前で完全に男の自信を喪失し、まるで雨に打たれた捨犬みたいな顔をしているのだ。


あの恐怖の代名詞は一体どこへ行ってしまったのか。なんて情けない姿なの……。

あの時のあなたはどこへ?

この地に連れて来られた当初、私の中で燃え盛っていたエハールへの憎しみと恐怖の呪縛は何時しか、あまりのギャップ差に少し毒気を抜かれてしまっていた。


……ちょっとだけかわいそうかしら。慰めた方がいいのかな。

い、いや、こんな奴に何を考えてるの私、こいつは私の仇なんだから……。


「時にロコよ。我輩の秘密、誰にも喋ってなかろうな?」

「喋っていないわ。何度も聞かなくても」

「本当の本当だな? 我輩に偽りは許さんぞ。それだけは、絶対に許さんぞ」


執拗に聞いてくるエハール。エハールは自分が不能であることを誰にも明かしたくないらしい。

エハールは誇り高く、騎士道を重んじる武人と言えば聞こえはいいが、それは言い換えればすごい『見栄っ張り』な男でもあった。彼の閨での秘密を知っているのは私とエハール、あとはほんの少数の従者だけだ。

エハールは笑われたくなかった。彼は完璧な騎士でありたく、完全主義だった。見栄っ張りの男だった。


「言ってないってば! 私はそんなことしないわよ」

「そ、そうか。すまぬ……」


エハールはようやく納得し、俯いた。

私は正直、ばらしてやろうかと思うこともあった。このエハールは私の国を滅ぼした仇なのだ。なんとかして一矢報いてやりたい気持ちがある。

だけど、もし暴露した場合この見栄っ張りのエハールがどういう行動に出るかと考えると……思いとどまっていた。拭い切れない恥をかいたエハールは、ついに逆上して私を殺し、自らも自害するかも知れない。


こんな身の上になっても、私は生きる望みを捨てていなかった。いつか必ず仇を撃ち、祖国を復興させてみせると誓っている。

事実私は囚われの身であり、私の生殺与奪はエハールが握っていると言っていい。つまらないことで逆らって下手に奴を刺激し、命を落とすわけにはいかないのだ。

だから今は忍耐の時なのだ。


……忍耐と言っても、エハールに一切手も出されず、生活に不自由なく日がな一日好きな事をして暮らしているんだけど……。

耳に届く噂では、故郷の旧ブルグント王国の民も、税はきついが比較的平穏に暮らしていると聞く。ついでに首都も今はエハールの飛び領地だ、騎士で見栄っ張りのエハールは民草を相手に鞭打つなどということはしない。そのあたりは信用できる男である。

エハールは騎士としての規範に則って、私を扱い約束を守っていた。ならば暴露したところで、一時は気が晴れても私自身を貶め余計に惨めになるだけだ。私も武人であり、恥を突いて笑うなんて報復は好まないし、卑怯で軽蔑するやり方だと思う。


「それで今日はどうするの? 私のベッドで寝るの? やっぱり、自分の部屋に帰るの?」

「……ああ。我輩は戻る……何かあれば近くの者に用立てよ。では、な」


エハールが服を身につけ、ふらふらと去っていく。落胆した背中が悲しげだった。

結局彼は、今までに一度も私の部屋で寝たことがなかった。

襲われないのは、いいんだけど。いいんだけど……。なぜだかすごく複雑な気分だ。

なぜ憎い魔族の仇敵に、私はこんな気持ちにさせられなくちゃいけないんだろうか。

私は小さくため息をついた。






人類の大敵、魔族。

その魔族の中でも誰よりも強く恐ろしく、人類の恐怖の代名詞と呼ばれた男――四魔大将軍の一『魔皓剣のエハール』。

魔王軍の急先鋒である彼が陥とした城市、町、陣営は数知れず。戦場における虐殺、勇猛果敢な戦ぶり、敵に対する情け容赦ない攻撃で勇名を馳せ、彼が参加した戦では人類に勝ち目はないとまで言わしめた名将軍。

もし剣を手に相対すれば彼に敵う者はなく。かの大魔王でさえも、近接戦闘に限れば凌ぐと評される剣の冴えを誇る猛者。

魔王からの信頼厚く、人後に落ちぬ名声、圧倒的な実力を誇る魔族の中の大魔族。


彼、パルフェクティオ・ミ・エハールは――ED(勃起不全障害)であった!!!






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