第一話 いつも通り
「次! 笹西さん、テスト」
先生に呼ばれ、背筋をただす。
バスケのシュートのテスト。
憂鬱以外の何物でもない。
「はーい...」
とぼとぼとゴール付近に近づいていく私はかなり無様な姿だろう。
しかし、私の頭の中で、このシュートテストと、何かがつながった。
そうだ、異世界に行った時。
モンスターに攻撃をあてるために、必要なんじゃないか。
あのゴールをモンスターだと思えば良いんじゃないか。
私の頭の想像力は見事なもので、バスケのゴールを瞬時に違うものに見せた。
ゴールはモンスターに。
ボールは攻撃魔法に。
大人はこういう状況を脳内お花畑状態というんだろう。
「笹西さん、すご...」
「ヤバいよ、ほとんど入ってるじゃん」
ふ、と顔がゆるんでしまう。
こんなに褒められたのは久しぶりだ。
気が緩み、魔力が抜けた。
「あ」
攻撃魔法が思いっきり違う方向に飛んで行ってしまった。
時間制限という名のモンスターが私を襲った。
「笹西さん、十本中八本ー」
割といい方、なのだが、異世界にいくための身体能力としては悪い方かもしれない。
私って、厨二病?
「星音ー、凄いね!」
彩花がハグしてくる。
私はそれを受け止められずに倒れてしまう。
「えへ、そうかな」
思わず照れ笑い。
しかし、彩花重い。
「星音、凄かったけど異世界異世界ってちょっとうるさいよー?」
ええっ、聞こえてた?
私変人確定ジャンそんなの。
「いや、口がそんな感じに動いてたから」
へー、そう。
・・・授業終わってほしい、早く。
そんな私の思いが通じたのか、思いの他授業が早く終わった。
他の授業は、いうまでもなく中学校の普通の退屈な授業だった。
異世界に関係あるようなことはなかったし、つまんない。
キーンコーンカーンコーン...。
終礼のチャイムが鳴った。
彩花とともに校門を出る。
「今日もいつもと変わらない退屈な授業だったねー」
彩花に言う。
まあ、いつも通りの授業だったし、いつも通りの日常だった。
「そうだねー」
彩花も笑う。
しかし上手く笑えていない。
「まーだバスケシュートの成績引きづってんの?」
「むー。そーですよーだ」
彩花のシュートは五本中二本。
まあまあだけれど、少し低い...かな。
どんまい!
「成績いいからそんなこと言えるんだよお...」
明らかにしゅんとした顔。
流石にいじめすぎたか?
「あー、そういえば勉強会するんでしょ」
「そう!勉強会!!」
話を変えたかったのか、即座に反応する彩花。
わかりやすい、わかりやすすぎる。
私の家で良いかな。
「うん、いいよー。じゃあ仕度したら星音んち行くね」
といっても、私と彩花はまさにお隣さんだ。
歩いても三十秒で行けるだろう。
と勉強会(遊び)の仕度の話をしていると、家についてしまった。
「んー、じゃあ適当に何か持ってくね」
はーい、と返事をすると、彩花は自分の家に入っていった。
「ただいまー」
「おかえり星音。彩花ちゃんくるの? 」
うん、と頷く。
お母さんはやっぱり、という顔をするとケーキを取り出した。
「彩花ちゃん来たら一緒に食べなさい。ちゃんと勉強するのよ」
しない。ゼッタイしない。
勉強なんてだいっきらーい。
自分の部屋に戻り、ふと考える。
こんな日常で私は満足している?
していないよね。
やっぱり、夢みたいな世界に行きたい。
どう考えても、私の頭はそれでいっぱいだ。