表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/24

四章  フローリア

   1


 王都サークの城門をくぐった騎士と歩兵の列が、整然と街道を西へと出発した。

 目的地は、十九年前にサーキス王国が併呑した旧フローリア公国領である。

 サーキス王国の王都サークから、旧フローリア公国領での演習に進発した一個軍は、現地に駐屯する騎士団を加えて八〇〇〇名に達する予定であった。

 現在は合流前の六〇〇〇名が行軍している。正騎士、従騎士、従者を含めた歩兵、輜重などの荷駄が整然と列を成して街道を進むのは威容であった。街道を行く人々や、通過する村や町の人々が、珍しげに手を振ったり見物したりした。

 実戦ではなく、演習であることが噂で広まっている様子で、人々が不安に陥ることはなかった。

 また、実戦でないことは行軍する側の精神も少し気楽にさせた。人々に手を振り返し、笑顔で表情をほころばせ、上官も隊列さえ乱さなければあまりそれをとがめだてなかった。

 そんな気の緩みがちな列のなか、馬上で気のない表情をシースティアはしていた。

『先日の質問を繰り返すのだけど……』

 昨晩、帰宅した彼女は父の私室に赴くなり、ジョゼフに心に決めたように訊ねたのだ。

『ワーズ・ワスマイルとは何者なの?』

『言ったはずだ、仕事の協力者だと』

『そう……では、こないだはルセカーになんの使いをさせたの?』

『ただのお使いだよ』

『うそ』

『嘘ではない』

 シースの脳裏には、ある疑惑が渦巻いていた。

 リシャール王子の部下が殺された。ちょうどルセカーが『ルセカーの剣』を持って、父ジョゼフの使いに出かけた頃だ。ルセカーは重傷を負い、生死を彷徨った。だが、一方で彼の剣も人を斬っているという。

 なぜ、少年はなにも言わないのか。きっとジョゼフの言い付けを守っているのだろう。それはわかる。

 そして、あの怪しげなワーズ・ワスマイルという男の口から出る、ルセカーの名。それにギゼとはなに?

 ジョゼフは優しい父親であるが、伯爵としての立場もあり、政治的な駆け引きから無縁ではいられない。それがまさか、自分と愛し合う人の障害となる事であったとしたら?

 嘘ではない、そいう父親の顔は、聞き分けのないことを言う子供を叱る目をしていて、従順であることを強要する。その裏に、いつも自分への優しさがあったことをシースは知っているし、今も変わりないと信じたい。

「わかった……明日から、演習でしばらく帰れないから」

「ああ、気をつけて行きなさい」

 そういう父に背を向ける。ジョゼフがどんな表情なのか

「……シースティア」

 呼び止めたジョゼフの気持ちはわからない。ただ、どこかで苛々が抑えられなくて、呼びかけに応じはしたけれど、立ち止まっても振り返りはしなかった。

 父から言葉が続かないのを見計らって、シースは後ろ手に扉を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ