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 9

 翌朝の出仕の時刻に、シースはまたしても独り馬上に在った。

 騎士であれば当然従者が焼くはずの世話を、侍女のクレアがしてくれるので遅刻の心配は無い。かつてであれば、クレアはエレという少女従者の立ち位置に遠慮してシースティアの身の回りに踏み込んでこなかったものだが、これもルセカーが従者として邸の一員に加わった効果だろうか。

 ああ、こうして人の心は癒されていくのだな、とシースは睡魔を抱えた脳裏で客観視していた。

 何も知らないルセカーが、エレの死によってできた穴を埋めてしまった。だから、クレアもシースティアの傷に触れてしまうことを恐れずに世話が出来る。

 騎士門に着くと、見慣れた門番が彼女を出迎えた。

「あれ? シースティア様、今日はルセカーのやつは?」

 門番が、少年の名前を出して気に掛けているのに、少なからずシースティアは驚いた。

「ガブレイ殿にこてんぱんにやられて、寝台に逆戻りよ」

 そんな朝の挨拶で始まった一日。同じような質問を、騎士団棟のなかでも耳にすると、素直に感心する。

「やあ、従者殿は今日はお休みだって?」

 例えばそんな同僚の軽口であった。

 いつのまにか、我が従者は自分の身の回りの人々に慣れ親しんでいるようだった。

 お昼時、中庭で休憩しているルーヤを見つけて声を掛けたシースティアは、その事を話してみた。

「ドタバタして目立っているだけですよ」

 二人は中庭にお茶とお菓子を用意して、お喋りの態勢を整えた。ルーヤはシースティアの言葉を一刀両断。そんな風に評される少年に憐憫の情すらわきそうだ。

「でもまあ、あいつには感謝もしてるんですよ」

「あら、どうして?」

「だって、シースティア様が、明るくなったから」

 照れを隠すように、ルーヤはティーカップに口をつけた。

「そう……なの?」

 それは新鮮な驚きだった。

 自分自身は、気丈にしているつもりだった。そんな自分をいたわってくれる周囲に気づかず、そしてまた心の傷が癒えていく自分を、好ましく見てくれている人がいたとは。

「そうかも……」

 あのぶっきらぼうな少年は、いつの間にか我が家に馴染んで、父娘だけでなく、使用人たちにも気に入られてしまった。

 エレがたおやかな花なら、あの少年はまっすぐ伸び育っていく若木だ。いつか大樹となって、木陰にひとを休ませてくれるような人物になるかもしれない。

「ありがとう、いい話を聞かせてもらったわ」

 カップを口元に運びながら、シースティアは言った。湧き上がる湯気が、頬に当たってこそばゆい感じがした。


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