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 7

 騎士団棟の中庭で、ルセカーは黙々と訓練用の木剣を振っていた。

 少女従者の心情は分かったような分からなかったような。でも、心意気は汲み取った。木剣の素振りにも力が入るというものだ。

「なっちゃおらんな」

 その声に、揚々とした気持ちが台無しになった。

 中庭は、騎士団棟のどこへも通じている。その男の目に留まらずに済むわけもなかった。

 シースティアの目の上のたんこぶ、と酒場の主人が評した。それを思い返すと少し頬が緩む。そこへすかさず不機嫌にさせる台詞を突っ込むのも、ガブレイという男のなせる業ということか。

「そんな腕では暗殺者が襲ってきても倒せんぞ」

 むっとした顔つきでルセカーは睨み返した。

「面構えだけは、一人前だな? どうだ、稽古してやろうではないか」

 ガブレイは、木剣を携えていた。(はな)からそのつもりだったに違いない。

 ルセカーが構えると、罠にかかった獲物を見るように、ガブレイはにやりと笑った。

 次の瞬間、鋭い風鳴りとともにガブレイの剣が繰り出されると、ルセカーの目に留まる前にそれは手を打ち、あっという間に剣を落としてしまった。

 ルセカーの頬を、剣を落としたことを罰するようにガブレイの木剣が打つ。手首を使ったそれは、鞭のように頬を叩いた。ガブレイが本気であれば、頭部を殴られて昏倒していたはずだ。本物の剣であれば首が飛んでいる。

「拾え」

 ガブレイは余裕を見せた。当然だ。彼はルセカーに相対してから一歩も動いていないのだ。

 これが修練を積んだ騎士との実力の違いであった。ルセカーは身体能力と、状況に対応した勘と捨て身の動きで危機は乗り越えられても、真っ向から剣の技量をぶつけ合うことを知らないのである。ガブレイの精神性はどうあれ、その剣は正統なものであった。

 まだしびれる手で剣を拾う。両手でしっかりと持たないと、打たれた手は握力が感じられなかった。

 右、左、ガブレイの打ち込みがルセカーの腕、足、動を叩く。体は反応するが剣さばきが追いつかない。

「どうした、打ってこい」

 打ち込みをやめて剣を下ろしたガブレイに、ルセカーは思い切り剣を振り下ろした。だが、その剣を打ち返され、見事に足を掬われて地べたに転んだ。

 砂をなめるルセカーの頭をガブレイは踏みつけた。

「どうだ小僧。騎士になるのは諦めて、ここから出て行くか」

 歯を食いしばって力を込める。

「あき……らめない」

 足を払いのけて立ち上がったルセカーは、再びガブレイに打ち込んだが、一つ空を切るごとに、二つ三つと体を打ち据えられることの繰り返し。ついに腕が上がらなくなったルセカーは剣を抱えるように体ごと突きを繰り出した。切っ先が迫らんとする寸前で、ルセカーの突進をガブレイは一振りして叩き伏せた。ルセカーの意識は、そこで暗転した。

「ふん、身のほどを知れ」

 台詞を吐き捨てたガブレイだが、いつの間にか息が上がっていた。




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