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騎士団棟の中庭で、ルセカーは黙々と訓練用の木剣を振っていた。
「元気になったのは良かったけどね、剣が振れるくらい治ったんなら、ちょっとは手伝いなさいよ」
通りかかったルーヤが、小言を投げかける。うるさくなりそうだったが、さっさと行ってしまった。
「まったく、誰が面倒見たと思ってんの。曲がりなりにも女子寄宿舎の部屋の寝台を貸し与えたっていうのに」
と思ったら、あちこちをいったり来たりするたびに、中庭を通りかかる。
ルーヤは、書類を運んだかと思えば、誰かに呼ばれてそちらへ駆けて、誰かに請われてはそちらへ走った。
「いいご身分ねえ。一週間ぐうたら寝てたと思ったら、今度は健康的に運動なんてぇ」
通っては一言残し、ルセカーは剣を振る風鳴りでそれを掻き消す。
「ま……ったく、ほんっ……とに、もう!」
力の入った声で、ずしずしという足音が聞こえそうな歩みとともに、ルーヤは再び通りかかった。今度は鎧を運んでいるのだ。大の男が、体にきっちりと当て着込んですら重たい鎧だ。少女が手に提げて容易に運べる重さではない。
中庭に面した廊下の手すりに一旦重みをあずけて呼吸を整えているルーヤに、ルセカーは観念して声を掛けた。
「わかった。手伝う」
その一言を引き出したいのだろうとばかりルセカーは思っていたのに、ルーヤは突っぱねた。
「いいわよ、あんたの手伝いなんか。中途半端な仕事されるて尻拭いするほうが面倒なんだから」
今回ばかりは、明らかに強がりである。
「そんなわけ、いかないだろ」
言い出したからこそそう思うが、鎧運びはルーヤには荷が勝ちすぎた。
「いいから! 武骨モノは剣の練習でもしてなさい! あんたが、一番シースティア様のお側にいるんだから!」
あ、とルセカーは少女の気遣いを理解した。と同時に理解に苦しむ顔をする。
「じゃあ、なんで不機嫌そうなんだ」
「腹が立つのも本当だからよ!」
ずしずしと、再び歩き去るルーヤであった。