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第十一話

11/18 文章を修正

 鎧の男が作った道から、次々に他の人間が現れる。

 総勢七人の大所帯だ。大小はあれど、全員が鎧を纏っている。

 紛らわしい、と理不尽な舌打ちを一つ。鎧の男だけで四人もいる。鎧の女は三人だ。

 とはいえ、この世界はゲームとは違う。例えば魔法使いはローブを着るイメージがあるが、普通はあんな布切れよりも金属の鎧の方が防御力は高いに決まっている。

 ローブは魔法防御が高いイメージだが、ここは森で、対策するべきは獣だ。

 基本的には鎧を装備するのが安全策だろう。


 鎧にも種類はある。

 頭にも鎧を付けているのは、最初に出て来た男だけだ。後の人間は頭部を露出している。

 その中でも、男女一人ずつ軽装な人間が目立っている。胸部分に小さな鎧をくっ付けているだけだ。


(ゲームっぽく考えると、魔法職なら防御は厚くする筈……アサシンってとこかな? あの二人だけ足音を消して歩いてるし)


 その二人の存在から、兵士の集まりという選択肢を除外する。

 だが、こんな場所にわざわざやってくるという事は。

 恐らく彼らは、本に載っていた冒険者といったところだろう。


「おお、中々いい所だな、ここは」

「本当に。まさかアルファルド大森林にこんな場所があるなんて」


 最初に現れた鎧の男と、女の一人の会話が届く。

 情報一つゲット、と内心でガッツポーズを決めた。

 どうやらこの森は、アルファルド大森林と言うらしい。

 アルファルドは地名か何かだと思うが、やはりこれだけ広大な森だ。大森林と大層な名前が付いている上に、彼らも全貌を知っている訳ではないようだ。


「で、どうするよオッサン。今日はここで野営か?」

「オッサンはやめろ。探索してみて収穫が無ければ、ここで一泊するのがいいだろう。お前たちもそれでいいか?」

「なんだか平和そうな所ですからね。僕たちも賛成です」

(そこの湖にとんでもなく大きい魚いるけど……)


 軽装の男が頭鎧の男に話しかける。

 水を向けられた男も納得し、満場一致でここを野営地とするようだ。

 彼らは知らないのだろう。今まさに女性陣が「わぁー! 水キレー! 冷たーい!」なんて言って触れている湖に、一歩間違えればトラウマになりそうな生物が潜んでいる事を。

 まあでも、僕には関係ないし、と。

 今はただ、彼らから情報を入手する事だけを考えようと気配を消し続ける鉄であった。



 観察しているうちに、彼らの素性がわかってきた。

 何故アサシン職が二人もいるのかと思ったら、彼らは元々二つのグループらしい。

 物腰柔らかな金髪の男が率いる三人のグループ。

 メンバーは銀髪の無口な男と、黒髪の軽装の女。

 もう一つはオッサン率いる四人のグループ。

 気が強そうな赤髪の女と、逆に気が弱そうな金髪の女。

 こちらの軽装は茶髪の男で、色々と軽そうな印象を受ける。

 随分我が強そうなグループだが、そこはオッサンがしっかりと纏めているのだろう。

 ちなみにオッサンの髪は肌色だった。時々日の光を反射するのがチャーミングだ。


 それが何故一緒にいるのかと言うと、一グループでは危険な仕事なので、合同でこなしているとの事だ。

 その仕事とは、薬の材料の採取。

 マガツニジマダラダケ、という名前だけが聴こえたが、何とかダケって名前からしてキノコだろう。

 その名前を聞いて、鉄は嫌な予感がした。なんとなく自分はそのキノコを知っているような気がする。


「あっ、あった! ありました!」

(やっぱりーっ!?)


 足元から響いた声に辟易する。

 黒髪が近くを探索しているのは気付いていたが、出来れば採取して行って向こうで騒いで欲しかった。

 何故なら。


「何っ! 本当か!?」


 オッサン達が集まって来てしまうからだ。

 真下でないだけまだマシだが、見付かるんじゃないかと鉄は気が気でなかった。

 どうか気付かれませんように、と息を潜める。


「うむ、間違いない。マガツニジマダラダケだ。それも群生しておる。でかしたぞマリア嬢」

「えへへ、偶然ですよー」


 口々に褒められ照れるマリア嬢。

 それはいいから向こうでやってくれマリア嬢、と毒づく。

 鉄は今気配を消している。普段は本能で鉄を避けている獣も、今は関係無く寄ってくる。

 森の奥から漂って来る獣の匂いにも、近くで生物が枝を踏み折る音にも、彼らは未だ気付かない。


「よし、では今日はもう引き返すぞ。今からなら昨夜の野営地には戻れるだろう」


 オッサンが発した言葉に、おや、と思う。

 先程はここで野営をすると言っていた筈だが、一体どういう風の吹き回しだろうか。

 見ると、オッサンのグループは全員納得した顔をしている。しかし、金髪の青年が率いるグループは不思議そうだ。


「このキノコには魔獣が寄ってくるでな。採取してしまえばその危険は無くなるが、ここに群生していた事を知る魔獣が来ないとも限らん。ここでの野営は控えた方が良いだろう」


 そんな金髪達にオッサンが説明をしている。

 その光景で、二つのグループの年季の違いが分かるという物だ。

 だが、遅いよ、と鉄は思う。

 初めて見る冒険者達の姿に、鉄は呆れていた。

 何もかもが遅すぎる。ここで野営をすると決めたなら、まず周辺の探索を迅速に行うべきだ。鉄のようなずば抜けた探知能力があるなら別だが、一夜を明かす場所の安全性を確認するのは何より優先すべき事柄ではないのだろうか。

 目的の物を見付けてからの反応も悪い。その程度の説明なら、荷物を纏めながらでも移動しながらでも出来た筈だ。

 そして彼らが目的のキノコを全て鞄に詰めた直後。


「……どうやら、遅かったようだな」


 オッサンがようやく獣の接近に気付いた。

 まだ気付かないんだ、と鉄は嘆息する。

 無駄な行動をして、更に無駄な戦闘をしようとしている。

 彼が自分の過ちに気付くのは、その結果誰かを犠牲にした時だろう。


 七人は湖の傍の、開けた場所へと移動した。

 森の中は大人数での戦闘に向かず、魔法も使い辛いというのが理由だろう。

 何故逃げないのかと鉄は疑問に思った。先程の話を聞く限り、キノコは採取さえしてしまえば獣を呼び寄せる力は無くなる筈だ。


 そういえば魔獣と呼んでたっけ、と思い出す。


 その魔獣がここに到着する前に逃げる時間は十分にあった。それに、音を聴く限り近付いてきている魔獣は非常に動きが遅いようだ。

 これなら姿を確認してからでも逃げられるだろう。しかし、彼らは動く素振りすら見せない。

 何か考えがあるのかと鉄はオッサン達を見て、更に落胆する事となる。


(……ああ、慢心してるんだ)


 金髪が率いるグループの面々は、皆緊張したような顔をしている。

 が、対照的にオッサンのグループにはそれが見られない。

 自信があるのだ。

 少なくとも、この森に生息する魔獣ならば、自分達が負ける筈が無いという自信が。

 その気持ちは解らないでもない。鉄も常に周囲を気にしているかと言われれば否だ。

 だが、彼らと鉄では探知能力に差が有り過ぎる。聴覚や嗅覚が異常発達した鉄はその範囲はもちろん、魔力や気配の隠蔽も通用しない。

 そもそも森に生息する野生生物は、本能的に鉄に近寄ってこない事が解っている。逆に、彼らの匂いや音は魔獣を呼び寄せるだろう。

 方法は解らないが、確かに魔獣に気付いたのは早かった。鉄には遠く及ばないが、それでも安全に対応出来る距離で気付いていたように思える。

 しかし、それは相手が一匹だったらの話だ。

 例えば今だって、後方から動きの速い魔獣が襲ってくるかも知れない。

 彼らの探知範囲を考えると、余程彼らの戦闘能力が高くなければ挟み撃ちの状況が容易に出来上がる。


 ここは人の手の届いていない場所だ。

 大小はあれど、至る所に死が転がっている。

 彼らは、それに気が付いているのだろうか。



(へえ、美味しそうなのが来たね)


 間もなく、現れた魔獣と冒険者達が対峙する。

 大きな熊だ。移動時は四足だったが、今は二足で立ち上がっている。優に三メートルはあるだろう。

 爪は鋭く、人間では簡単に引き裂かれてしまうだろう。それを防ぐ為に鎧があるのだろうが、この大質量では爪は防げても吹き飛ばされるが押し潰されるのがオチだ。

 必然的に攻撃は回避するしか無いが、冒険者側は七人もいるのだ。全員で翻弄すれば難しい事ではないだろう。

 幸い、体の大きさと重さから動きは鈍そうだ。背を向けて逃げるという選択も視野に入るかも知れない。


「ブラックベアですか……いくらこの人数でも相手をするのは辛いですね」

「だが、逃げた先で別の魔獣に出くわしたら厄介だ。ここで討伐するのが安全だろう」


 熊を見て金髪が苦い顔をする。どうやら厄介な魔獣のようだ。

 それに応えるオッサンを見て、おお、と鉄は感心を覚える。

 オッサンの顔からは、一切の油断が消えていた。

 相手が厄介だから、という訳では無い。命のやり取りをするのだと理解しているからだ。

 見ると、オッサングループの他の面々も同じだった。先程までの油断や余裕は姿を隠し、ただ目前の敵だけに意識を向けている。その変化に、金髪達も驚愕しているようだ。

 だが、それも一瞬の事だ。金髪達も気を引き締め、熊の方へと向き直る。

 七人全員が戦闘態勢へと切り替わった。魔獣の咆哮が森を揺らし、周辺の木々から何羽もの鳥が空へ飛び立って行く。

 戦いが始まった。


 冒険者達が散開する。

 オッサンは熊の正面に、赤髪の女、金髪の女は左側に回り込む。

 茶髪の男は後ろだ。金髪のグループの男二人は右側へ。黒髪の女はその近くへ移動する。


「おらよ、っとぉ!」


 後ろ側に回った茶髪の男が素早い動きで背中を切り付ける。

 が、そこそこ勢いが乗ったように見えたその一撃は、しかし熊の皮を少し切り裂いただけだった。

 熊が後ろへと回転しながら腕を薙ぎ払う。まともに受ければ無事では済まないだろう威力だが、動作はそこまで速くない。

 茶髪の男は既に軌道上から退避している。後ろに跳ぶその手にはナイフが光るが、熊の血は一滴も付着していないようだ。


「やっぱり固ぇ! ナイフじゃ傷も付かねえぞ!」

「ですが、隙は出来ました!」


 叫ぶ茶髪に応えたのは金髪の男だ。

 右側に陣取っていた彼が、回転を止めた熊に肉薄する。

 左下から右上へと袈裟に振り上げた長剣が熊を捉えた。それでも、付けられた傷は極めて浅い。

 激昂した熊が金髪目掛けて左腕を振り上げる。圧倒的な死を前にして、しかし金髪は冷静さを失わない。

 後ろに控えていた銀髪が、金髪の横へ躍り出て長く持った槍を突き出した。

 狙いは熊の頭部、見開いたその眼球だ。


「グォォォォォォォォオ!」


 戦闘開始時と同じように、熊の咆哮が森を揺らした。

 しかし、それは片目を潰された事による断末魔の叫びだ。

 狙いを付けられなくなった熊の腕は金髪と銀髪の間へと落ち、二人は散開する事でそれを回避した。

 ありがとう、という金髪の言葉に、銀髪が頷きを返す。

 熊が腕を振り回す。見切れない速度では無いとはいえ、それは冒険者達に簡単に死をもたらす一撃だ。

 攻めるタイミングが掴めず、誰もが二の足を踏む。


「皆さん、下がって下さい!」


 それを打開したのは、オッサンのグループにいた金髪の女だ。

 その言葉に全員が熊から距離を取ったのを確認すると、彼女は手に持っていた杖を高く掲げた。

 彼女から溢れた魔力が杖を通るのを感じる。そして、彼女の前に巨大な火の玉が形作られていく。


(杖を通した途端、少しだけど魔力が増えた?)


 気になって見てみると、杖から微弱な魔力を感じる。

 どうやら、あの杖には魔法を強化する効果があるらしい。決して強化量は多くないようだが。

 だが、鉄には一つ不思議に思う事があった。


(あの魔法、なんだかスカスカだ)


 大きな火球だ。内包された魔力も相当な物だろうと思ったが、その実態は見掛け倒しに近い。

 あの熊の固さを見るに、あれでは大したダメージは入らないだろう。

 まさかこの期に及んで素材とかを気にしてるのだろうか。それとも他の人間に見せ場を作るつもりか。

 浮かんだ考えに鉄は愕然としたが、目に映った光景に考えを改める事となる。

 火球が熊に直撃する瞬間、その魔法を放った彼女は肩で息をしていた。


(もしかして……限界?)


 一瞬だけ驚愕を覚えたが、冷静に見ると彼女はまだ魔力を有しているのが解る。

 それを見て、限界なのは魔力量ではなく、魔法の威力なのだろうと判断する。

 わかりやすく言い換えると、MPの最大値が百なのに使えるのはMPを十消費する魔法だけ、という状況だろうか。

 とはいえ、この世界に決まった魔法が無いのは本にも書いてあったが。もしかしたら、一度に運用出来る魔力には限りがあるのかも知れない。

 まだ推測に過ぎないが、鉄はこの推測に確信を持っていた。

 一つ魔法に関する知識が増えて、改めて。

 やっぱり僕は人間離れしてるなあ、としみじみ思った。


 火球の直撃を受けて、暴れていた熊の動きが止まった。

 鉄の予想通り、目立ったダメージは通っていないように見える。

 痛みに暴れていた熊は、その怒りを魔法を放った金髪の女に向けた。

 残った片目で彼女を睨み付けると、雄叫びを上げながら一歩を踏み出した。


「お前の相手は、私だ」


 金髪が後ろに下がり、代わりに傍に控えていた赤髪が前に出る。

 武器は剣だ。しかし細く、威力よりも手数や切れ味を重視した作りになっている。

 向かってくる熊に踏み込みながら一閃。速度の乗った一撃は、金髪の剣戟よりも深く熊の胴を切り裂いた。

 振り下ろされる腕を左に跳んで回避。宣言通り、熊は赤髪へと標的を変更する。

 追撃しようと前に出る熊を、後ろから再びの衝撃が襲った。


 そこに居たのは黒髪の女だ。

 彼女の両手には鋭いナイフが握られている。それで熊の背中に刺突を放ったが、速度があってもやはり腕力が足りない。

 傷さえ付かず、しかし彼女の表情に変化は無かった。

 彼女を吹き飛ばそうと熊が左回りに体ごと腕を回転させる。

 触れただけで致命傷に成り得るそれを、彼女は身を屈める事で回避した。

 その体制のまま、右手に持ったナイフを投げる。

 放たれたナイフは、緩やかな速度を保って残った目へと迫っていく。


 それは本能だった。片目を潰された時の痛みが恐怖となって、熊は反射的にそれを回避する事を選んだ。

 その結果、バランスを崩す事になったとしても。


「バレットさん、今です!」

「でかしたぞマリア嬢!」


 黒髪が後ろへ跳び、バレットと呼ばれたオッサンが熊へと向かう。

 全身に鎧を付けているからか、他の人間に比べると動きが遅い。

 しかし、バランスを崩した熊はそれにすら対応出来ない。


「オォォォォオオオ!!」


 獣のような雄叫びと共に、振りかぶった大剣を叩き付ける。

 普通の獣ならば両断されるような一撃が、熊の胴へと深く食い込んだ。

 すぐに剣を引いて後ろに下がる。熊はまだ生きているが、もう満足には動けないだろう。

 熊と冒険者達の戦いは、冒険者側の完勝だ。


 誰もがそう思っていた。

 手負いだが、熊はまだ生きている。先程の動きがあれば負ける事はないだろうが、それでも目を逸らす事は出来ない。

 しかし、与えた傷が油断を生んだ。

 張り詰めた気を、無意識に緩めてしまった。


(ああ、そこ、危ないよ)


 ザパン、と、響いた音は大きくはない。

 だが、不思議とよく耳に残る音だった。

 冒険者達が振り返る。湖面は波紋に覆われ、そこから何かが顔を出している。

 ずっと機会を伺っていた湖底の巨大魚が、その一瞬を見逃す筈も無かった。


 突然の事に判断の追い付かない冒険者達は動けなかった。

 大口を開けた巨大魚は躊躇う事も無く襲いかかる。


「……え?」


 七人の中で、最も湖面に近く。

 迫る赤色に未だ硬直した黒髪、マリア嬢に。



×戦闘シーンが下手

○戦闘シーンも下手

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