表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

出会い

夢を見た。

遠い日出会いの夢。

私はこの町に引っ越してきたばかりだった。

小学生に入りやっと馴染んできたところでの引っ越しだった。

子供心に私はとても不安だった。

全く知らない土地で、全く知らない人たちと接していかなければならない。

自慢じゃないが極度の人見知りだ。

兄弟もいない私にとっては、両親を通じてやっと仲良くなれるくらいに。

両親は引っ越しの話をした際に私に謝っていた。

自分の子供に謝る程、どうしようもないことなのだと感じた。

駄々はこねなかった。

悲しかったけど、寂しかったけど、しょうがないこと。

初めて諦めるということを知った。


引っ越して一番困ったのが近所への挨拶回りだった。

お隣の家には私と同い年の子が住んでいた。

両親共に共働きなのか、いつも家で留守番をしていた。

挨拶に行った時も、一人で知らない人間である私たちと元気に話していた。

「こんにちは、よろしく!」

手を振って笑顔で挨拶してくれたのに対し、私はお母さんの後ろに隠れて俯いてしまった。

少年は不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に変わった。

「仲良くなれそうだね」

その言葉に両親ともとても安心し、嬉しがったという。

私からすれば、どう仲良くなっていいかわからないし、接し方も全くと言っていいほど知らない。

そんな私に、少年は事あるごとに私の家に遊びに来た。

夏休みが終わってからの編入だったので、まだ自分の通う学校に行った事がない。

少年はまず学校に案内すると言って、返事の出来ない私の手を取り連れ出た。

両親はと言うと、特に心配もせず笑顔で送り出す始末。

まだ会って間もないというのに、連れ出される娘の心配くらいしろと後で思った。


学校に着いた時には、来た道など全く覚えていなかった。

知らない土地、知らない子、異性に手を繋がれての緊張で、話しかけれてはいたはずだが全く覚えていない。

「…ちゃん。みさきちゃん。学校に着いたよ」

繋がれていた手から温もりが無くなると同時に、少年は走り出していた。

一面砂の校庭が広がり、横に長く広い建物が校庭の奥、小高い丘の上に堂々と建っていた。

丘から校庭へと続く両脇に伸びた道の先に、すでに何人か集まっている様子だった。

少年はその集団に混ざり何かを話している。

そして、みんなが一斉にこちらを向いた。

遠くからでもわかる視線に、自然と握りこぶしが固くなる。

少年はまた走って私の方へと向かってきた。

「んじゃ、みんなであそぼ」

そう言って手を伸ばしてきたが、とっさに振り払ってしまった。

「…やだ」

やっと言葉を出せたように思う。

初めての会話がやだ、とは当時の自分が恨めしい。

「大丈夫、みんな友達だから」

「…私の友達じゃない」

「これから友達になるんだよ」

「友達は、いらない」

「でも俺はもう友達だよ?」

「…え?」

余りにも淡々としていて、私は何も考えられなくなった。

どうしてこうも簡単に友達と言えるのだろう。

私の中で、友達は「作る」ものだと思っていた。

しかし、今こうして友達が「出来る」と言う事が幼い私には理解できなかった。

一瞬止まった隙を突かれ、少年は私の手を力強く握りしめ歩き出した。

予想以上に強い力と、何も迷いが無い足運びに私もつられて歩きだしてしまう。

「まずは自己紹介」

「じこ、しょうかい」

「俺をちゃんと真似るんだぞ、いくよ」

少年はわざとらしく大きく息を吸い込む。

「はじめまして」

「は、はじ、めまして」

なんとか噛みながらも言葉を吐き出す。

少年は笑顔になり、また息を吸い込む。

「たきざわこうきといいます」

「たき、ざわ…こうき」

「ははは!違うよ、みさきちゃんの名前だよ」

少年は笑っていたが、私はやっと知った少年の名前に少し安堵感を覚えた。

少し恥ずかしかったが、私も笑顔になれたと思う。

「次は本番だ」

小さな輪になっている中心へと進んでいき、すべての視線が交差する場所で止まった。

もちろん緊張はしていたが、私よりもほんの少し大きい手が安心感を与えてくれた。

みんなの視線を一斉に浴び、繋がれている温もりを離さぬよう力を込める。

「はい、はじめまして」

「は、はじ、めまして!」

ちょっと声が上ずったと思うが、気にする余裕がない。

みんなは私の自己紹介が終わるのを静かに、そして笑顔で待っていた。

「この子は、たちばなみさきです」

「わたし、は、たちばなみさきです」

今度はなんとか噛まずに言えた。

こうきも私を見て笑顔になる。

「みんな、よろしくな」

「み、んな、よろしくな!」

風船が割れたように一斉に笑い声が響き渡った。

私はなんでみんながそこまで笑うのかわからなかった。

「みさきちゃん、おもしろい!」

「よろしく、みさきちゃん!」

「よろしくな、ってまんまこうきじゃん!」

こうきの言葉をそのまま口にしてしまった事に気が付き、顔が熱くなっていくのがわかる。

「ははは、そうやって俺を真似れば大丈夫!」

こうきの笑顔を見たとき、繋いでいる温もりも同時に熱くなっていた。

私はこの温もりに救われた。

この笑顔に、この声に、こうきという存在に救われた。

これからもこうきのように話せば、私もこうきのようになれるだろうか。

緊張せず、誰とでも話す事が出来て、友達も作れる、そんな人間になれるだろうか。

一日中繋いでいたその手は、とても力強く、優しく私を包んでくれた。

私も握り返す。

初めて他人に興味を持った。

離したくないと思った。

そして、私は好きになった。


照りつける太陽よりも、顔と手が熱くなっていることに私は気が付いていた。

あ、感想を頂けると、もれなく作者のやる気が付いてきます!(^-^)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ