序章
ファルディナ王国。
緑豊かなこの王国には、ある伝説があった。
約300年前、とある青年が異世界より訪れた女性を己の妻に迎え、当時戦争続きであった小国を併合し、見事大国ファルディナを築き上げた。
争いの無い国を目指し平和を求めた青年は、多くの人々に望まれ初代国王となった。
国王の隣には彼がまだ普通の町民であった頃からずっと、美しい黒髪の女性がいたという。
苦しみや悲しみを共に乗り越えた彼らは、初代国王、王妃としてファルディナを導き続けた。
初代国王の残す言葉にはこうあった。
「いつでも私の背を支えてくれていた彼女がいてこそ、私はこうしてファルディナを守る事が出来るのだ」
初代王妃が本当に異世界の者であったかは定かでは無い。けれど立国者たる初代に倣い数代の後、王妃召喚が行われた。
初代で、戦乱で荒れた国が豊かな国になったように。
異世界からの加護を受けさらに国が栄えるように。
ファルディナ王国は王妃の召喚の儀式を行うようになったのだ。
そして現在、歴代のどの王よりも素晴らしいと噂される、8代目となるエルディールの王妃召喚が行われようとしていた。
ファルディナ王国、国王の側室ラウラ・アレニウスは月明かりの下で両手を握りしめ祈っていた。王妃召喚で王妃が現れなかった場合、次期王妃がほぼ決まっている存在だった。
「神様、どうかお願いいたします…!」
窓から入る光が彼女を照らす。彼女の持つ赤銅色の髪が美しく輝いていた。幻想的とさえ言えるその光景は誰も見ることは無い。
「お願いです。王妃召喚で、ぜひ!国王陛下の御目に叶う方が召喚されますように」
「神様!私は、王妃などなりたくはありません……!適当な権力を持って、面倒なことはせず、自由気ままに、好きなように、生きたいのです。王妃など、面倒事の塊じゃないですか!」
「私の願い、聞き届けて下さいませ!」
これは王妃召喚のある世界で、公爵家長女として生まれ国王の側室となった主人公が、己の願いの為に死力を尽くす物語。
「召喚が成功しますように!」
ラウラ・アレニウス
働くことが嫌いな、出来るだけ引きこもっていたい主人公である。