古い記憶 4
全く知らない場所で一人になってしまった。
こんな時の子供に出来る事はただ一つだ。
「びぇ~ん」
俺は大声で泣き始めていた。
もし両親や姉が近くにいれば聞こえるのではないか?
もしくは他の大人が助けてくれるのではないか?
勿論そういう考えで泣いた訳ではない。
自分は置いていかれたと思ったのだ。
ただ今にして思えばそういった考えも無きにしも非ずだった様な気もする。
現に近くを通った若いお母さんが話しかけてきてくれたのだ。
実際にはオバサンだったが、きっと若かったのだろうと思う。
「僕、どうしたの? 迷子になっちゃった? 何号棟に住んでるの? お名前は?」
色々と聞いてくれたが泣き止む事が出来ずに一つも答えられなかった。
そんな時、視界の奥を何かが横切った。
それは間違いなく姉だった。
俺は駆けっこの様に飛び出し、姉の胸へとゴールインをした。
姉は優しく頭を撫で「こっちだよ」と手を引いてくれた。
俺が行った棟は実は十九号棟で、二十号棟の一つ手前だったのだ。
同日同時刻に十九号棟でも引越しがあったらしく、そのトラックと勘違いをして犯してしまったミスであった。
こうして無事に新居に辿り着いた俺は数日後に、幼稚園という初の団体行動を経験するのだが、そこでの初日も散々だった。