俺という人間 2
新婚旅行から帰ってきて二週間くらい経った頃だったと思う。
俺の仕事は飲食業だ。
関東を中心にチェーン展開している業界最大手の回転寿司の店長を任されていた。
店長の上には地区長と呼ばれる上司がいる。
店長は一店舗の責任者で、複数の店舗の責任者が地区長である。
その地区長からある日、仕事終わりにカラオケに誘われた。
「新婚なんで・・・」と断ったからといって出世に響く様な会社でもなければ、物分りの良いその上司が怒る分けでもない。
でも断る事なんて考えていなかった。
断らない主な理由は三つある。
一つ目はストレス解消だ。
俺の唯一の解消法はカラオケなのだ。
店長というのは見た目以上に大変で、非常にストレスが溜まるものである。
更に高校生のバイトが多い為に、高校までの俺の性格ではバイトは付いてこない。
俺は偽りの俺を演じていた。
それも大きなストレスだった。
だから独身時代は高校生のバイトを誘って、頻繁にカラオケに行き解消をしていた。
二つ目は上司の誘いだからだ。
いくら出世に関係ないといえど,
頻繁ではない上司の誘いを無下に断るわけにはいかない。
それに外回りなどをする営業の方達とは立場は少し違う気もするが、俺だってサラリーマンなのだ。
三つ目はスキンシップ。
酒が入らないと言えない愚痴や相談だってあるし、カラオケなら高校生のバイトや部下だって来る。
そんな時こそ互いに交流を深める機会でもある。
ただのカラオケでも楽しみとストレス解消と親睦会を兼ねた物なのだ。
だから俺は行く気満々だった。
ただ時間が気になった。
仕事は夜の十時前後に終わる。
誘いを受けたのも十時過ぎだった。
俺は急いで自宅に電話を入れた。
「あの~、結婚式に呼んだ地区長がね、これからカラオケに行こうって誘ってくれたから行きたいんだけど・・・」
「ふざけんなよ!こっちはメシ作って待ってんだよ!今夜は帰ってくんな!」
ガチャン!
受話器を叩きつけた様に電話は切れた。
俺は地区長の誘いを断り急いで帰宅した。