古い記憶 3
十号棟は一番奥にある建物だから、トラックがそこに着くまでには当然に他の棟も、棟の間にある空き地も目に入る。
所々にブランコやシーソー等の遊具が置かれている小さな空き地があった。
子供にしては恰好の遊び場だ。
俺は二十号棟に着くと早速、五十mと離れていない空き地へと遊びに行った。
一本道なので道で迷う事は無いが、団地故に、一回り小さいとは言え建物はどれも同じだ。
壁には大きく二十と書いてあったが、そんな事に気付く様な賢い子供では無かった。
俺は目印として『引越しのトラックが停まっている棟』とインプットして、母の承諾を得てから気軽に遊びに行った。
そこの空き地には遊具は一つしかなかったのだが、初めて見る遊具に病みつきになった。
とは言え所詮は一人遊び。
飽きるのも早かった。
俺は引越しのトラックを目印に二十号棟を目指した。
帰る時点になって初めて不安に包まれた。
もし道を間違えていたら・・・
もしトラックがいなくなっていたら・・・
もし皆が俺を置いて、どこかに出掛けてしまっていたら・・・
新居へと向かう一歩一歩が不安へと向かっている感じだった。
「あっ!」
俺は思わず声を上げていた。
トラックを見つけたのだ。
安心が足を軽くしたのか勢いよく走り出していた。
しかし喜びも束の間・・・
父も母も姉も見当たらなかった。
トラックがあるのに誰もいない。