福田洋子(ふくだようこ) 6
俺はレギュラーだった。
先発として出場していたが、ただ単に体力があるというだけの理由だったに違いない。
現に後輩の方が上手い奴がいた。
俺のプレイはパスやパスカット等の地味なプレーが多かった。
それは誰に言われたわけでもなく、シュート率の低い俺が生き残る為に考えたプレーだ。
だからと言ってシュート練習をやらなかったわけではないし、むしろ皆よりも多くやっていただろう。
部活中の休憩も休まず、部活後は居残り、休みの日には母校の瑠璃中のグランドにあるバスケットリングで練習をした。
色々な本を読んだり、高校生の試合を見たりして、何度もフォームも変えたが全く上達しなかった。
やり方がいけなかったのか、それとも才能が無かったのかは今もって分からない。
更に悪い事に俺は部員から反感を買う様になった。
恋人の福田洋子にのめり込み過ぎて、周りが見えなくなっていたのだろう。
もちろん部員は俺達の交際を知っている。
それを承知した上でも目に余る事が多かったのだと思う。
ただ悪い事は重なるもので俺は右膝を痛めてしまった。
殆ど曲がらなくなってしまったのだ。
正座はもちろんのこと体育座りも出来ず、通学に使っていた自転車さえも、まともに漕げない状態だった。
原因は膝の骨が出っ張ってしまい、神経を圧迫しているとの事だった。
取り敢えず電気療法をしてみるが、それでも治らない場合は手術との事だった。
俺は怪我を誰にも知られたくなかった。
部活中もこっそりと鎮痛剤のスプレーを人知れず吹きかけていた。
電気療法のおかげで以前に比べれば痛みは和らいだが、激しい運動は難しかった。
選択を迫られた。
治療を続ければ痛みが治まるのも遠くはなさそうだ。
ただプレーに自信がない。
仲間とも噛み合わなくなってる。
今なら怪我を理由に退部する事が出来る。
(部活を辞めよう・・・)
一度はそう決意したが出来なかった。
逃げるみたいで嫌だったし、何よりもバスケを続けたかったのだ。
俺はキャプテンと副キャプテンだけに膝の故障を告げた。
今まで俺を敬遠していた二人は「大丈夫か?無理するなよ。辞める事は無いよ」と心配してくれた。
それが例えポーズだったとしても、退部の決意を却下させるには十分だった。
膝は歳を重ねた今でも時々は痛むが、プレーには差し支えの無い所までは復活した。
いつの間にか仲間とのわだかまりも解けた様だった。
こうしてそれなりに充実した二年生は終わりを告げた。