二人の恩人 6
ただ何を隠そう粕谷も理科では同じ班だ。
という事は俺が問題を悩んでいる間、一生懸命に星名の問題を解いていた一人だった。
その粕谷がヨッパの去った後、俺に言ってきた。
「郡司、さっきの問題よく出来たね。俺は分からなかったよ。」
「いやいや、単なる偶然だよ。」
「ヨッパとの話・・・聞こえちゃったんだけどさぁ・・・俺も郡司はやれば出来ると思うよ。もしやる気があるなら協力するよ」
「どんな風に?」
「俺の行ってる塾から問題用紙をコピーして持ってきてあげるよ」
「あっ!それ・・・出来るならお願いしたいな・・・」
「よし、任せておいて」
それから粕谷は約束通りに、塾の翌日は必ず十枚から三十枚の問題用紙を、持ってきてくれる様になったのだ。
それ以来、俺は勉強をする時間がどんどんと増えていった。
成績も少しずつだが上がってきた。
成績が上がれば勉強も楽しくなる。
良い循環ではあった。
しかし受験を控えた一ヶ月ほど前から、俺の中に粕谷に対しての不信感が現れてきた。
いや・・・それは言葉が違う。
このまま粕谷がいたら本当の自分が出てきそうで怖かったのだ。
この頃の本当の自分がどんな物なのか正直分からないが、自分の領域に入られそうで拒否反応が出てしまっていた。
だから俺は粕谷とあからさまに距離を開けた。
それでも粕谷は変わらずにプリントを持ってきてくれた。
本当に良い奴だった。
凄く励みになっていた。
でも言葉どころか態度にすら感謝を表す事が出来ずにいる自分が腹立たしかった。
最初は怖くて粕谷を避けた。
でも後半は傷つけたくなくて粕谷を避けた。
どっちにしろ俺のわがままだった。
自分が傷つくのを恐れて、人を傷つけているとも分からずに。
こうして高校入試に突入した