心の変化 16
俺は人見知りをするので、先生と普通の会話をする事が出来ない子供だった。
それでも俺なりに何とかしようと頑張ってはいたし、先生も俺にちょっかいを出してくれるのだが、やはりうまく返せなかった。
そんなある日の雨の昼休み。
キャンプに行ったメンバーが深沢先生を机に押し倒しくすぐり始めた。
先生は何度も跳ね除けるが、友達はめげずに向かっていく。
俺も勇気を出して一度だけくすぐりに行ったが、あっさり跳ね除けられてしまった。
でも俺は嬉しかった。
深沢先生に限らず先生と呼ばれる人とこんな風にはしゃいだのは、初めての事だったからだ。
(今日の俺はいつもと違うな。これを機に先生と仲良くなれるかもしれない)
そう感じていた矢先だった。
流石に多勢に無勢で先生がひるんだ。
(ここで俺も飛び込んでいこうか・・・)
俺は迷っていた。
しかし慣れきったわけではない俺は、先に順を行かせて続けざまに行こうと策を練った。
そして「良し!順!行けぇ!!」と順の背中を押して、先生の上にダイビングさせた。
次は俺の番だ。
これでまた一歩、先生との距離が縮まるぞ、
そう思った矢先だった。
「郡司!何でお前は自分から来ないんだ!そんなんじゃダメだろ!!」
怒鳴られた。
教室内が静まり返った。
俺は教室を出て次の授業が始まるまで、ずっとトイレの個室に入っていた。
トイレの中で何故か過去を思い出していた。
家族で出掛けた記憶は二つしかない。
一つは四歳の頃だったと思うが新潟の祖母が亡くなった時。
そしてもう一つは六歳の頃だと思う・・・伊豆への家族旅行だ。
これ以外は旅行は勿論の事、買い物や外食すら家族の思い出は無い。
土日は何故か父がいなかった。
いたかもしれないが遊んだ記憶が無い。
友達の田中が日曜日の度に父親とキャッチボールをしているのが、たまらなく羨ましかった。
そして母は昼間は働く様になっていた。
姉はいるが五歳も年上だと相手にしてくれない。
これが姉ではなく兄であったり、兄と妹、姉と妹という関係なら、きっとまた違っていたのだろう。
よく考えたら一人ぼっちだ・・・そう感じてしまった。
俺はただ調子を合わせれば良い・・・
笑っていれば良いだけの存在なんだ・・・
そうすれば、もう一人ぼっちじゃなくなるんだ・・・
この時を境に俺は本当の自分を出せなくなってしまったのだ。
こうして小学校六年間は終わっていった。