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餅角ケイのエッセイ単品寄せ集め

蚤の市で待ってる

作者: 餅角ケイ
掲載日:2026/10/25


 蚤の市を知っているだろうか?

 主に青空の下、各店主が選りすぐりの古道具を持って集まり、そこで展開される市場のことである。古道具を扱うといっても決して堅苦しい場所ではなく、客の挙動にいちいち目を光らせる店主もいない。屋台なので出入り自由。


 私は今月、その蚤の市(正式名称は異なるものであったが)にいってきた。今、その戦利品2品を隣に並べながらこの文章を書いている。稚拙な表現で恐縮だが、未だに楽しすぎてわくわくが止まらない状態なのである。忘れられないトキメキをここに共有したい。



 蚤の市が好きだ。ふらっと見て回って、特に何も買わなくても罪悪感を抱かなくて済むあの感じが好きだ。店員がしつこく追従してくることもない。繊細な気遣いさんにはもってこいの蚤の市。


 蚤の市が好きだ。実店舗とはまた違う、このゆるい独特な雰囲気が好き。お昼どきに客の目の前で弁当を食べていても、スマホ片手に接客していても、だーれも怒らない。下手をすればその場に店主がいなくて、別の店まで見に行っていることさえある。当然、その間店はガラ空き。「これいいね~~」って、店主が別の店主の売り物を褒めにいっている。で、「お客さん来てるよ!」ってその別の店主に言われてる。


 若い姉ちゃんが品物を持ってきつつ、急いで店主を呼び止める。

「これほしいんですけど…………あの、トイレ行きたくて!」

「いってきな」半ば呆れ顔で品物を預かる初老の店主。

「はいっ! ありがとうございます」(姉ちゃん、なんとなくいい人そう)


 こうなるのも仕方がない。並んでいるものはほとんどが一点物で、早い者勝ちの世界なんだ。品を手に取るとき、誰でもわずかにその手を止める。みんながみんな各々の内心と対話しながら、それぞれにとっての掘り出し物を探しに来ている。雑然としたガラクタの中からお宝の一品を見つけだす、あの感覚。


 もちろん、特に探し物がない人だって蚤の市に来てもよい。並べられているのは主に昭和やそれ以前の骨董、レトロポップなグラスや食器、平成に流行ったマスコット人形までなんでもある。本当になんでも(ちなみに今回いった蚤の市の珍品としては、子供の肩幅くらいある植物の拡大模型とか、手のひらサイズだけれど超リアルな正常妊娠模型などが売っていた。どこで仕入れてきたの?)。

「その妊娠模型、同じやつでも、一部、透明のやつと色付きのやつがあるんですよ。一部ね」(なにその無駄に細かいラインナップ)


 さすがに妊娠模型に対して懐かしみを覚える人は少ないかもしれないが、並べられている品々を見るだけでも「わ~これ懐かしい!」というノスタルジーに浸ることができる。お金を出さずとも、蚤の市にはそういった楽しみ方がある。


 本気で探しにくるもOK、なんとなく懐かしさに浸りに来るのもOK。ガチ勢からゆるふわまで何人(なんぴと)たりとも受容する、このよくわからない独特の雰囲気が好きだ。あと「ゆるい」は緩いじゃなくて、ゆるい。伝われ。



 私は、主にアメリカのヴィンテージ食器や昭和の日本食器にカラープラスチックの品々、それに特定の色の雑貨を強く好む。しかし自身の直感に基づいて、いいなと思ったものはジャンルに囚われずなんでも手を出してしまう。「なんかないかな」という中途半端な目的がありつつも、とりあえず全ての店をみて回っている。熱中して見るとどうしても視野が狭くなってしまうので、何度も何度も回遊魚のようにスペースを回っている。

 不思議なもので、同じ出店を見ていても、1週目になかったはずのものが2週目になって急に売り出されている……かのように錯覚することがある。「なにこれ。こんな醤油型の木製ホッチキス、さっきまであった?」というような具合である。あと他には、日清カップヌードルの模型に車輪が付いているものとかがあった。日清ってCM部門だけが変なこと(誉め言葉)しているわけじゃなかったんだ……。


 もちろん欲しいものがあればその場でお金を出して購入する流れになるのだが、ここは蚤の市。70000円の巨大アンモナイトから100円のマッチ箱まで、ピンからキリまでなんでもある。ちなみに私は100円のマッチ箱を買った。


 このような古物市場では、ときとして現代社会では有り得ないような値段で平気で良品が売られていることもある。蚤の市ではないのだが、今年いった雑貨屋で、私は20円の珍しいパフを買った。全体がミントブルーで、ちょっと背伸びした耳かきくらいの長さの柄が付いたパフ。ファンシーなステッキみたいで乙女心がくすぐられる、昔の資生堂が作った可愛い未使用品である。会計で値段を読み上げる際、店主のおばあちゃんも半笑いだった。税込み20円って。駄菓子か?

しかし私にとっては紛れもない掘り出し物である。こういう思いがけない出会いがあるから、雑貨屋や蚤の市を見て回るのは楽しくて仕方がない。



 今回購入したマッチ箱に話を戻す。私にマッチ箱を集める趣味はないのだが(この界隈にもマニアは存在していて、平気で2000箱とか集める人もいるらしい)、いかにも! という感じの昭和な字体に、禍々しい表現・そのデザイン性に惹かれて買ってしまった。

どうやら薬剤の宣伝広告のようだ。箱には禍々しい太陽と月のマーク。それを背景として『昼は沈静・夜は催眠 ドイツバイエル製 催眠鎮静剤アダリン』と書かれている。軽く調べてみると1910年に発売された薬剤の名前で、太宰治などが常用していた薬剤なのだとか。30錠で250円、という数字の記載にも時代を感じてしまう。その作用からODにも使われていたようだが、昔の人は、この薬で死ぬのにいくらかかったのだろう?


 なお現代では他の副作用が少ない薬剤が台頭した結果、もうアダリンそのものが市場で売られていることはないらしい。……こんな感じで、その製品に関するちょっとした知識が増えていくのも楽しみのひとつである。今回は自分で調べたわけだが、場合によっては親切な店主がその物の背景を教えてくれることもある。例えば、以下のやりとり。


 私は、今回の蚤の市でもう一つ良い買い物をした。手のひらにギリギリ収まる程度の列車模型だ。これに関しても特に鉄道の趣味があるわけではないのだが、私好みの淡い緑色と精巧な造りが琴線に触れて、なんかいいなと思って買ってしまった。

おそらくたくさんのガラクタを扱っているせいで、会計時の店主も『あっこんなのウチにあったんだ』的なリアクションを呈している。それがなんだか私には面白い。


「へ~~~~」

店主が感嘆の声を漏らす。老眼に少し苦戦しながら、過去の自分が付けた商品の付箋を見ている。「開業当時は、全部この色の車体だったんですよ。知ってます?」

 平成生まれの私はそのリアルを知らないけれど、親切な店主が教えてくれた。

「昔は全部これだったんですよ。近未来感があって格好良かったんですけどね。そっか~~今の子はもう知らないんだ、若いね~~」


 もう一律に若いと評される年代ではないのかなと最近思っていたのだが、やっぱり昭和の年長者からみればまだまだ私は若いらしい。

「色がかわいかったんで」

「そうか、なるほどね」

 当時に関する知識を生の声で聴くことができて、年代を超えた色々なコミュニケーションができて楽しい。



私は机上で『アダリン』の文字と列車の模型を交互に見やりつつ、今回もいってよかったと思った。おかげさまで大層良い休日となった。



 言いたいことが散逸してしまいましたが、結局何が言いたいのかというと、蚤の市めぐりはさほどお金のかからない素敵な趣味だということです。さああなたも気軽に、レッツ・蚤の市ライフ。まずはお住まいのまちで開催されている蚤の市に、気軽に足を運んでみてほしい。冬はすぐそこ。どうか寒さで足が遠のいてしまう前に、ぜひ……。




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― 新着の感想 ―
蚤の市大好きです! 古い物も大好き。人の手が感じられるものや、その経緯を感じられるものも好き。 例えば骨董、アンティークなお皿。大切にされ、お正月などのイベントの時しか使われなかったのか。だからこそ残…
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