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第8話 : 初雪、あるいは届かなかった返信
言葉は、ときどき遅れて届きます。
雪のように、
静かに、
音もなく。
それに気づいたときには、
もう溶けない形になっていることもある。
告知の最後の一文には、
いつもの彼らしくない、やわらかな言葉が添えられていた。
「今、外では初雪が降っています。
試験勉強で忙しいとは思いますが、
少しだけ外に出て、雪に触れてみるのもいいかもしれません。」
私は、吸い寄せられるように窓の外を見た。
嘘みたいに暗くなったキャンパスの上に、
白い欠片が静かに舞い落ちていた。
彼は今、この雪を見ながら、
誰のことを思っているのだろう。
私は、長いあいだ窓の外を見つめていた。
返信は、書かなかった。
書けなかった。
雪は降り続け、
彼のあの一文は、
まだ私の中で、
溶けないままだった。
返信を書かなかったのは、
勇気がなかったからかもしれない。
それとも――
あの一文が、
すでに答えだったからかもしれない。
初雪は、
触れれば消える。
けれど、
触れなかった雪ほど、
長く残るものなのかもしれません。
物語は、まだ動いていません。
けれど確実に、
何かが始まっています。




