第7話 : 括弧の中に封じられた本心
九十分の沈黙のあとに残ったのは、
たった一行の括弧でした。
誰にでも読めるはずのその言葉が、
なぜか、ひとり分だけ熱を帯びる。
静かな告白は、
いつもいちばん目立たない場所に隠れます。
終了のチャイムが鳴り、
彼は九十分間、私のそばにあり続けた
あの重たい沈黙を引き上げるようにして、
教壇へ戻っていった。
試験が終わると同時に、
私は解放感よりも、
どこか名づけられない空虚さに包まれ、
足早に教室を後にした。
その日の午後、
大学のポータル掲示板に
期末試験の成績発表が掲載された。
震える指でログインし、
その投稿を開いた。
【現代文学論 成績発表】
一学期間、お疲れさまでした。
今回の試験はかなり難易度が高かったにもかかわらず、
満点取得者が二名もいました。
真剣に思考した跡の見える、見事な解答でした。
満点者:キム〇ホ、イ・ジウ
(※ちなみに、小学生のころ私が片思いしていた人と同じ名前です)
画面を見つめたまま、
息が一瞬、止まった。
満点者への称賛のあとに、
さりげなく添えられた、
あの短く、けれど強烈な括弧の一文。
それは、
すべての受講生が目にするお知らせだった。
それなのに――
私だけに向けられた、
いちばん熱い告白のように感じられた。
九十分間、
私のそばを離れなかったあの影の理由が、
冷たいモニターの向こうで、
ようやくはっきりとした活字となって、
私に届いていた。
勉強と試験、
そして無機質な文字のあいだで
凍りついていた私の心の上に、
あの括弧の中の本心が、
ゆっくりと降り積もっていく。
私はしばらく、
モニターの電源を
切ることができなかった。
括弧の中の一文は、
冗談にも見えるし、
ただの偶然にも見えます。
けれど――
本当に偶然なら、
あんなふうに心臓は鳴らない。
九十分間、動かなかった影の意味が、
ようやく言葉になった夜でした。
物語は、まだ引き返せる場所にいます。
でもきっと、
もう誰も、元の位置には戻れない。




