第5話 空白に刻まれた約束
第5話です。
たった一つの空白が、
未来を変えてしまうことがあります。
まだ何も始まっていないのに、
なぜかもう、戻れない気がする――
そんな静かな約束の瞬間です。
期末試験を目前にしたキャンパスは、
いつもより少し冷たく、そして慌ただしかった。
私は、
空いた講義室の片隅に座り、
専攻の教科書ではなく、
来学期の時間割を書き込んだノートを広げていた。
ダブルメジャーへの進入を控え、
組まなければならない時間割は、
まるで地雷原のように複雑だった。
必修科目を埋めていくと、
火曜日の午後に、
ぽつんと一つだけ、
孤島のような空き時間が残った。
「悩みが多そうですね。」
聞き慣れた、低い声に、
肩がわずかに跳ねた。
いつ近づいたのか分からないまま、
チョン・ウジン教授が
私の机の横で足を止めていた。
彼の視線は自然に、
ノートの上の時間割へと落ちた。
「あ……教授。」
彼は目を細め、
私の時間割をなぞるように見下ろしたあと、
火曜日の午後の空白を、
指先で、とん、と軽く叩いた。
「ここ、
来学期に開講する私の授業を入れればいいですね。」
心臓が、どくりと落ちた。
提案というより、
当然の流れを告げるような口調だった。
私は思わず顔を上げ、
彼を見た。
「教授、
来学期も授業あるんですか?」
私の問いに、
彼はほんの一瞬、
やわらかな笑みを浮かべた。
いつもの無表情の裏に隠れていた、
私だけが見つけたような、
やさしいひび。
「ありますよ。」
そして、静かに続けた。
「だから、その空白。
空けておいてください。」
確かな返事を求めるように、
彼はまっすぐ私を見た。
私は、
何かに導かれるように、
小さくうなずいた。
「はい。必ず取ります。」
その約束が、
私の人生をどんな方向へ
傾けるのか――
あのときの私は、
まだ知らなかった。
ダブルメジャーの重圧が
その空白を飲み込んでしまうことも、
彼が、
たった一つの約束に、
自分の一年を賭けることになることも。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
空白は、ただの余白ではなく、
誰かの意思が入り込む場所なのかもしれません。
あの日の小さな約束が、
やがてどんな重さを持つのか――
物語は、少しずつ
選択の方向へと進んでいきます。




