第30話:受信箱 (Side Jung Woo-jin)
研究室に
一人でいた。
論文のファイルを開いたまま
しばらく
何もしていなかった。
スマートフォンではなく
ノートパソコンの画面の隅に
メールの通知が出た。
差出人を見た瞬間
指が
止まった。
イ・ジウ。
私は
ゆっくり
メールを開いた。
長い文章ではなかった。
先生、こんにちは。
イ・ジウです。
一学期間、授業をありがとうございました。
先生のおかげで、たくさん学ぶことができました。
それから——
先生がご結婚されたと聞きました。
本当におめでとうございます。
幸せでいてください。
私は
そのメールを
三度読んだ。
一度目は
理解しようとして。
二度目は
行間を探そうとして。
三度目は
ただ
もう一度。
行間は
なかった。
「幸せでいてください。」
その言葉は
きれいだった。
未練も、
恨みも、
期待もなかった。
ただ
終わりだった。
私は
長いあいだ
画面を見つめていた。
返信を書こうとした。
カーソルが
白い画面の上で
点滅していた。
一文字も
書けなかった。
窓の外は
もう暗かった。
私は
ゆっくり
ジャケットの内ポケットに
手を入れた。
指輪が
指先に触れた。
冷たかった。
取り出して
左手の薬指に
ゆっくり
はめた。
肌をなぞりながら
元の場所に戻っていく感触が
妙に
よそよそしかった。
ずっと
そこにあるはずのものなのに。
ノートパソコンの画面を
閉じた。
研究室が
暗くなった。
私は
しばらく
その暗闇の中に
座っていた。
運命だと
信じていた。
一年待ち、
指輪を隠し、
視線を
そらせなかった。
それなのに
彼女が送ってきたのは
祝福の言葉だった。
そして
それが
正しかった。
初めて
その事実を
正しいと思えた。
指輪が
指の上で
静かに
自分の重さを
見つけていった。




