第28話:似ている人
廊下に出ると
まぶしい光が
差し込んでいた。
私は
少しだけ
足を止めた。
「いつでも
リコラのキャンディが欲しくなったら
連絡してください。
喜んで買ってきます。」
その言葉が
まだ耳の奥に残っていた。
私は
あの言葉の意味を
わかっていた。
キャンディの話じゃないことも、
「いつでも」が
ただの親切じゃないことも。
でも
知らないふりをした。
あの人も
私が知らないふりをしていることを
きっとわかっていて、
それでも
ああ言ったのだと思う。
私は
階段の手すりに寄りかかって
少しだけ
空を見上げた。
あの人は
私を揺さぶらなかった。
引き止めもしなかった。
説明もしなかった。
ただ
隣に
いてくれた。
そして
一番必要なときに
レモンのキャンディを
ひとつ
差し出してくれた。
そのとき
初めて思った。
私たちは
似ているのかもしれない、と。
言わない方を選び、
わかっていても
知らないふりをして、
感情を隠すことに
慣れすぎている人たち。
だから
お互いを
見つけられたのかもしれない。
涙が
出そうだった。
でも
泣かなかった。
あの人なら
きっと
泣くなと言う気がしたから。
その代わりに
静かに
一つだけ
願った。
あの人が
本当に
幸せでありますように、と。
レモンキャンディのように
最初は少し
酸っぱくて、
そのあと
やさしく甘くなるような、
何も残さず
きれいに溶けていくような
そんな
幸せを。
私は
手すりから手を離し
もう一度
歩き出した。
光が
背中の後ろから
長く
ついてきていた。




