第2話: 休み時間、めくられたページ
1話を読んでくださった皆様、ありがとうございます。
休み時間の、
ほんのわずかな距離の変化です。
授業が始まるまで、
まだ十分ほどあった。
教室は、どこか中途半端にざわついていた。
席を立って話している人もいれば、
イヤホンをつけたまま、うつむいている人もいる。
私は
窓際の席に座って、
本を読んでいた。
『ノルウェイの森』。
もともと
集中しようと思って開いた本じゃなかった。
なんとなく――
人の中にいながら、
一人でいたくなるときに読む本だった。
ページをめくろうとした、その瞬間、
目の前に影が落ちた。
「その本。」
低い声。
私は
反射的に顔を上げた。
チョン・ウジン教授だった。
教壇の上ではなく、
私の机のすぐ横に立っていた。
「村上春樹ですよね?」
「あ……はい。」
なぜか、
声が一拍遅れた。
彼は
返事を待つように、
しばらく私を見下ろしてから、
何でもないことのように
私の本を手に取った。
許可も、
断りもなく。
まるで
もともとそこにあった物のように。
「この場面、
最初に読んだときは、
あまり分からないんですけどね。」
彼は
本を数ページめくった。
ページをめくる音が、
やけに大きく聞こえた。
「後になって、
妙に長く残るんです。」
彼は
そのページで手を止めた。
「ジウさんは、
どう思いますか?」
私は
本ではなく、
彼の手を見ていた。
本の上に置かれた指。
きちんと整えられたシャツの袖。
近すぎる距離。
「私は……」
息を整えて、言った。
「文章は
落ち着いているのに、
読んでいると、
何度も心に触れてくる感じです。」
彼は
小さく笑った。
「ですよね。」
そして、
ごく自然に付け加えた。
「乾いているのに、
人を揺さぶる。」
しばしの沈黙。
「まるで――」
彼は言葉を続けた。
「ジウさんみたいだ。」
その瞬間、
心臓が
とん、と落ちた。
「あ……
教授。」
彼は
自分の言葉が
どんな波紋を残したのか、
すでに分かっているような顔で、
本を元の場所に戻した。
「もうすぐ授業、始まりますから。」
その言葉は
一歩引いたように聞こえたけれど、
視線は
簡単には離れなかった。
「いい選択ですよ、この本。」
それだけを残して、
彼は教壇の方へ戻っていった。
そのときになって、
私はようやく息を吐いた。
「ねえ。」
スジンが
すぐ隣で、
肘で私をつついた。
「今のあんた、
顔、真っ赤。」
「静かにして。」
「いや、」
スジンは低く笑いながら言った。
「教授が
本めくりながら話しかけてくるの、
見た?」
私は
答えなかった。
本の上に、
まだ彼の温度が
残っている気がして。
チャイムが鳴ったけれど、
私は
そのページをめくれなかった。
もう、
読める状態じゃ
なかったから。
彼は何もしなかった。
それなのに、
私の本一冊は、
すっかり別の物語になってしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
何も起きていないのに、
何かが確かに変わった時間でした。
次回も、静かに続きます。




