第16話:隠れて待たない方法
逃げることが正解のように見える場面でも、
前へ出る人がいる。
守られる役ではなく、
自分で選ぶ側に立つ瞬間。
今日は、
彼女が隠れなかった日の話です。
サバイバルゲームが始まった。
慣れない迷彩服とゴーグルを身につけると、
急に世界が狭くなった。
私は男子学生二人、女子学生二人、
そしてチョン・ウジン教授と同じチームだった。
チームリーダーはやけに私を気にかけた。
「ジウさん、装填はこう。」
彼の手が私の手の上に重なる。
手首をまっすぐに直し、
銃口を下げろとささやいた。
「息を整えてから撃てばいい。焦らないで。」
近すぎた。
迷彩服の裾を整えながら、
「これ、引っかかるとすぐ撃たれますよ。」と笑う。
私はうなずいた。
少し離れた場所で、
チョン・ウジン教授がその光景を見ていた。
表情は読めなかった。
けれど――
その目は、異様に静かだった。
静かすぎて、
かえって熱を帯びて見えた。
ゲームが始まる。
パン。パン。
BB弾が木に当たる音。
学生たちの叫び声。
リーダーが前に出る。
「カバーして!」
だが一瞬だった。
「アウト!」
リーダーが最初に倒れた。
「ジウさん、下がって!」
教授もすぐに撃たれた。
短い息。
残ったのは、私ひとり。
待機エリアから相手チームの声が聞こえた。
「おい、女子一人残ってるぞ。」
「さっさと終わらせてこい。」
笑い声。
その言葉が、
胸のどこかをひっかいた。
不思議と、
心臓は落ち着いていた。
逃げようとは思わなかった。
私は隠れなかった。
低く身をかがめ、
むしろ前へ進んだ。
森が静まる。
足音を殺し、
相手陣地へ入り込む。
遠くに、
男子学生一人が
木の陰に隠れていた。
私が隠れると思ったのか、
視線は別の方向を向いている。
私は銃を構えた。
リーダーに教わった通り、
手首の力を抜き、
息を止める。
その瞬間、
周囲がひどく静かになった。
パン。
男子学生が動きを止めた。
そして――
わああああ!
森がひっくり返る。
待機エリアから
みんなが飛び出してくる。
「やばい!」
「大逆転じゃん!」
リーダーが真っ先に駆け寄る。
「すごい!ほら、俺が教えた通りだろ!」
両手で私の肩をつかむ。
興奮した息が近い。
女子学生たちが叫ぶ。
「ジウ、ジャンヌ・ダルクじゃん!」
誰かが拍手をした。
私はそこでようやく
大きく息を吐いた。
その隙に、
チョン・ウジン教授と目が合った。
さっきとは、まったく違う目だった。
熱を帯び、
そして少しだけ、複雑に揺れている。
彼はゆっくり近づいてくる。
歓声が、少しずつ遠のいた。
「よくやりました、イ・ジウさん。」
そして手を上げた。
「ハイタッチ。」
私は手を上げる。
ぱん。
手のひらがぶつかる。
短い接触。
けれど――
すぐには離れなかった。
ほんの、
ほんのわずかな時間。
彼の視線が、
さらに深くなる。
隣ではリーダーがまだ騒いでいる。
「ほら教授!俺が教えたんですよ!」
教授は短く笑った。
「そうですね。」
だがその笑みは、
目までは届いていなかった。
私はゆっくり手を下ろした。
歓声の中で、
不思議と
とても静かな瞬間があった。
MTの森は
まだかすかに揺れていた。
そして私は、
この一日が
ただのゲームで終わらないような予感を、
初めて感じていた。
勝ったのは、ゲームだけだったのでしょうか。
あの森で揺れたのは、
BB弾の音だけではなかったはずです。
触れた手。
離れなかった一瞬。
そして、静かに見つめていた視線。
本当に撃ち抜かれたのは、
いったい誰だったのでしょう。




