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初雪と括弧  作者: seolremdal
12/31

第12話:遅すぎた問い、閉じられた出席簿 (チョン・ウジン視点)

タイミングは、

いつも少しだけ遅れる。

たった一度のすれ違いが、

言葉にしなかった誤解が、

誰かの人生の方向を変えてしまうことがある。

あの一年のあいだ、

彼は何を選び、

何を諦めたのか。

そしてそれが、

どんな形で今に戻ってくるのか。

これは、

遅すぎた問いの物語です。

一年前、

誰もいない講義室で、

私は毎週火曜日に静かに崩れていた。

授業開始十分前。

癖のように出席簿を開く。

手が先に動いた。

そして――止まった。

「イ・ジウ。」

その名前があるはずの場所は、

何事もなかったかのように、空白だった。

最初は、手違いだと思った。

ページを前後に何度もめくる。

紙がかすかに鳴る。

だがそこにあったのは、

冷たい余白だけだった。

彼女は来なかった。

「空けておいてください」と言った

あの空欄は、

まるで私を試すかのように

そのまま残っていた。

聞きたかった。

なぜ来なかったのか。

何があったのか。

だが、聞けなかった。

その瞬間、

自分が彼女を待っていたという事実を

認めることになる気がしたからだ。

その冬、

私は妙なほど静かになった。

授業はいつも通り行い、

論文も期限内に提出し、

教授会でも問題はなかった。

だが夜になると、

何もなかった顔のまま

生きることができなかった。

私は自分に言い聞かせた。

「ただ通り過ぎる学生だった。」

「お前は教授だ。」

「これは感情ではない。」

その言葉を、

毎日のように繰り返した。

だが出席簿の空欄は、

何度も視界に入り込んできた。

見合いに向かう日、

私は鏡を長く見つめた。

顔は普段と変わらなかった。

冷静で、整っていて、

崩れていない人間の顔だった。

彼女――

その女性は、

何も期待していない表情をしていた。

それがよかった。

説明する必要も、

隠す必要もない関係。

私たちは互いに

質問をしなかった。

あの日、私は

何も言わないという選択をした。

結婚は、

決意というより、

逃避に近かった。

指輪を初めてはめたとき、

何も感じなかった。

心臓は跳ねなかった。

ただ、

ひとつの選択が

他のすべての可能性を押しのけたという事実だけが

はっきりしていた。

私はそれを

「大人の判断」と呼んだ。

そして一年後。

講義室のドアが開いた。

私は何気ないふりをして顔を上げた。

彼女だった。

時間が止まったかのように、

空気が薄くなる。

視線が先に動いた。

ほんの一瞬。

そして、あまりにも長く。

ポケットの中の指輪が、

異様に重く感じられた。

その瞬間、

一度も口にできなかった問いが

胸を裂いて浮かび上がった。

――なぜ来なかった。

その問いは、

一年遅れて届き、

私の心臓を切り刻んでいた。

授業のあいだ、

私は言葉を重ね続けた。

文学は選択の物語だと。

沈黙は、ときに最も大きな告白になるのだと。

彼女は顔を伏せ、

ノートに書き込んでいた。

一文字も取りこぼさないように、

丁寧に。

私は視線を外した。

あまりにも遅く。

彼女は何事もない顔で

書き続けていた。

私はその顔を知っていた。

傷を隠すときの表情。

それを見抜ける自分が、

残酷だった。

その日、家に帰ると、

玄関の灯りが妙に遠く感じられた。

「おかえりなさい。」

妻の声は穏やかだった。

私はうなずいた。

食卓には

温かい汁物が置かれていた。

湯気が立っている。

だが不思議なことに、

その温もりを

身体の中に取り込むことができなかった。

向かい合って食事をしながら、

私は今日の授業の話をしなかった。

口にした瞬間、

何かが露わになる気がしたからだ。

妻が私の手に触れた。

無意識の癖のように。

そのとき、

指輪がもう一度、

肌に食い込んだ。

この女性には、

何の罪もない。

その事実が、

かえって息苦しかった。

夜更け、

書斎でひとり出席簿を開いた。

「イ・ジウ。」

今度は、

その名前があった。

はっきりと。

私は指先で

その文字をなぞった。

そして、ようやく気づいた。

遅すぎた問いは、

結局、

閉じられた出席簿の中でしか

巡り続けないのだと。

私は最後まで、

尋ねることはないだろう。

なぜ来なかったのか。

なぜ戻ってきたのか。

そして――

なぜ、今なのか。

選ばなかった可能性は、

消えるわけではありません。

蓋をしても、

見ないふりをしても、

心のどこかに残り続ける。

大人の判断だと信じた選択が、

いつのまにか

最も鋭い痛みになっていくこともある。

彼は、間違えたのでしょうか。

それとも、

ただ早すぎただけなのでしょうか。

問いはまだ、

閉じられたままです。

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