第10話 : ポケットの中の偽証
一年という時間は、
何も変えないようでいて、
静かに何かを積み重ねる。
彼女はまだ知らない。
けれど読者のあなたは、
きっと気づいている。
あの一年のあいだに、
彼の世界で何が起きていたのか。
そして――
それが、いま
ポケットの中で音を立てたことを。
教室のドアを開けたとき、
一年前と変わらない乾いた空気が、私を迎えた。
けれど――
教壇に立つ彼の時間だけは、
まるで別の方向へ流れていた。
出席簿をめくるチョン・ウジン教授の手が、
ふと止まる。
私を見つけた、その瞬間。
彼の瞳に走った小さな地震を、
私は確かに見た。
彼は動揺を隠そうと、
慌てて視線を落とした。
けれど、
私の目は彼の左手に留まっていた。
教壇の下に隠されたその左手から、
かすかな音が聞こえた。
――チン。
ほんの微細な、金属が擦れる音。
彼が、
薬指にはめられていた指輪を、
荒く引き抜く音だった。
肌をなぞるように、
無理やり外された指輪は、
彼のズボンのポケットの奥へと消えた。
だが――
彼は痕跡までは消せなかった。
出席簿を握る左手の薬指には、
陽の光を一度も浴びていないかのような、
痛いほど白い指輪の跡が、くっきりと残っていた。
長くその場所を守ってきた
重い約束が、
たった今、破棄されたことを示す、
最も露骨で、そして卑怯な証拠だった。
彼は何事もなかったかのように、
私の名前を呼ぶ。
けれど――
ポケットの中で、
絶えず何かを触れている彼の指先と、
空気に溶けきらない、あの微かな金属音が、
私の心臓を冷たく刺した。
彼は、
私を見たその瞬間に、
自分の世界をひとつ、
丸ごとポケットの中へ
押し込めたのだった。
見えてしまったものは、
簡単には消えません。
冷たい金属の感触は、
心のどこかに残り続ける。
けれど――
凍りついた午後にも、
思いがけない香りが
そっと差し込むことがあります。
酸味と、やわらかな甘さ。
次の章で、
空気は少しだけ
やさしく変わります。




