第1話:あの視線の、はじまり
韓国を舞台にした、静かな恋のはじまりです。
教室のドアを開けて入ったとき、
私はただ、いつもと変わらない専門科目の授業を一つ受けるだけだと思っていた。
けれど――
空気が、最初から違っていた。
「こんにちは。今学期、『現代文学論』を担当します、チョン・ウジンです」
教壇に立つその男は、教授というよりも、
雑誌からそのまま抜け出してきたモデルのようだった。
身体にぴったり合ったグレーのニットにジーンズ。
そして、黒縁メガネの奥に見える、柔らかさと鋭さを併せ持った眼差し。
「やば……あの教授、実物エグいんだけど」
隣の席のスジンが、小さく息を呑むように呟いた。
新入生の頃から双子みたいにくっついてきた彼女でさえ、
完全に見とれている表情だった。
私は平静を装ってノートパソコンを開いたけれど、
実際には指先が、わずかに震えていた。
卒業後の進路のことで頭はいっぱいだったし、
何より私は、一度別の道に進み、
そしてまた戻ってきた人間だった。
同じ学年の学生たちの中に混じって座っていても、
なぜかいつも、呼吸が一拍遅れているような気がしていた。
誰かを好きになる余裕なんてない。
そう、何度も自分に言い聞かせてきたのに――
その誓いは、
最初の一文から、すでに揺らいでいた。
「出席を取ります。カン・ミンジ」
「はい!」
教室には、どこか張り詰めた空気が流れていた。
女子学生たちは、授業前に塗り直したリップグロスを気にしながら、
彼の視線を待っている。
「イ・ジウ」
自分の名前が呼ばれた。
私は癖のように、手を挙げた。
「はい」
その瞬間、
彼の視線が、まっすぐ私に向けられた。
一秒にも満たない一瞬だったのに、
周囲の雑音がすべて消えたような錯覚を覚えるほど、
その視線は強烈だった。
彼は出席簿から顔を上げ、
私を――
正確に、一度だけ、見た。
無関心を装ってはいたけれど、
メガネの奥で、彼の瞳が深く揺れたのを、
私は確かに見ていた。
――どうして……あんなふうに見るの?
他の学生には視線すら向けなかった彼が、
私の名前のところでだけ、
なぜか立ち止まったような気がした。
授業が終わると、
スジンが確信に満ちた声で言った。
「ねえ、教授があんたを見るときの目、見た?
絶対、あんただけじっと見てたって!」
私は首を横に振ったけれど、
胸の奥では、
得体の知れない揺らぎが、静かに芽生え始めていた。
そのときの私は、まだ知らなかった。
再び戻ってきたこのキャンパスで、
一番最初に、私を見つけた人が――
教授になるなんて。
静かなはじまりです。
もしこの一秒に何かを感じていただけたなら、
それだけで十分です。




