若き王が聖女召喚に立ち会った
聖女のオマケで付いてきてしまった少女が、元の世界に帰れないと知り。
「誘拐犯共。今直ぐ慰謝料を払うかここを破壊されるかを選べ」
我々をこう脅してきた。
オマケのお前に何が出来ると、鼻で笑う神官達と魔道士に大臣達。
聖女が。
「そんな事言っちゃダメよ。みんな困っているんだからね」
慈悲深いその言葉に皆が頷く。
「あんたさあ、分かってんの?あんたはコイツラのせいで、あんたの彼氏に二度と会えなくなったんだよ」
ハッとした顔の聖女。じわじわと泣き顔になっていく。
その後はわんわん泣き出し手がつけられなくなった。聖女は我々に一切協力はしないと叫んだ。
召喚魔法は一方通行。彼女達は元の世界には帰れない。それを分かっていて呼び出した我々であったが、こっちも世界の滅亡を掛けて必死であったのだ。
だが大義名分を振りかざすなと、弁の立つオマケには誰も勝てない。このオマケにはこちらの世界の権威など少しも通用しないのだ。それ故我々はすっかり犯罪者扱いだ。
そこでその彼氏とやらもここに呼べばいいじゃないかと、大臣の一人が言い出した。私が名案だと頷いた所で、聖女がふざけるなあと言い放つと同時に、オマケが手をかざして神殿の天井部分を破壊した。
天井が無くなり覗く曇天の空。砂埃の消えゆく残煙を見上げて呆然とする。
オマケが、なんかこの世界の女神様とやらが怒ってて、自分にやれと言ってきたからそうしたと言ってきた。
女神!となるとこのオマケは神子か!それも女神の力の一部を使える型か。これは厄介だ。こちらの要求なぞ一切聞いてもらえないのではないか。
泣き崩れ床にぺたりと座る聖女の肩に、神子がやさしく手を乗せた。
「大丈夫だよ。こいつらが使えないから、代わりに女神様達がうちらを帰してくれるんだってさ」
聖女は喜び立ち上がると神子に飛びついた。女神達は我々を使えないと認定した。
彼氏とやらに会いたい恋愛の力で、本気を出した聖女が、凄まじい速さで瘴気を全て消した。
「陽君に早く会いたい会いたああい!」
聖女の願いを叶える為、女神達が次々と空から降臨してきた。初めてみたな。美女揃いだが体形にはあまりメリハリがないような。
「う!」
脈が止まった!
「王!」
「陛下!如何なされたかあ!」
再び鼓動が刻まれ始める。私が側近に支えられながら脂汗を流していると、女神達が少女達の前に立ちにっこりと微笑んだ。
『聖女よ。神子よ。使えない現地人の代わりに良くやってくれました』
女神様はキツイ!
確かに神子は瘴気で狂った魔獣を倒しまくっていた。国を代表して感謝する。
『私達からのお礼です。元の世界に戻ると同時に使えるギフトを授けましょう』
「きゃあうれしい!」
「うぇーい」
しかし女神たちのギフトは、向こうでは研究所とやらに監禁される領域の、危険なものらしい。仕方なく二人は言語能力と多少の治癒力で手を打った。祖父母達が膝の軟骨が擦り減り、歩行に難儀しているのだそうだ。
物理的な物も渡せない。向こうの世界に歪みが起こり得るそうだ。
二人は貰った魔道具を泣く泣く返していた。一瞬で着替えと化粧が出来る魔道具が一番欲しかったのだそうだ。次点はいくら食べても太らない、ブレスレット型の魔道具。そんな物があったのか。
そうして彼女達がこちらへ来た時と同じ座標、つまり向こうでは時間が経っていない場所へ女神達が転送を始めた。
笑顔で我々に手を振る彼女達に手を振ると同時に敬意を表した。
そして二人の姿は見えなくなった。
ありがとう少女達。ありがとう可憐で暴力的な勇者よ。出来れば二度と会わぬことを願う。女神達の仕置が怖いからな。




