七ツ目
「──俺はお前を信じるぞ!」
そう力強く言ったのは漸く学校に登校するようになった竹次郎だ。その手にはゴミ袋が握られている。
長谷川少年は彼は町内のゴミ拾いをしていた。これは学校に忍び込もうとして大騒ぎになった事と勝手に花壇を勝手に掘り返した罰である。
実はあの後、もとに戻さなかったせいで花壇の花の一部が枯れてしまったのだ。花壇の花には本当に悪い事をしたと思っている。
「俺が校舎で人影を見たって言っても誰も信じてくれなかったのに、お前だけは信じてくれたからな! だから俺もお前を信じる!!」
彼はにっと笑った。長谷川少年はくすぐったさを感じたが次の一言で全て台無しになった。
「さぁ、今度こそ学校の七不思議を調査しよう!」
──今、その罰を受けてる真っ最中なのに……。
その言葉に長谷川少年はついジト目で彼を見る。
──てっきり、僕は竹次郎君はおばさんが梅子ちゃんにばかり構ってるから、気を引きたくてあんなことをしたと思ったのに。
心の声が漏れていたらしい。長谷川少年の呟きに竹次郎は一気に顔を赤らめる。図星だったようだ。
「……いや、それだけじゃないぞ! 兄ちゃん。松太郎って言うんだけど、その友達が見たって言うんだ!!」
「何を?」
「校庭の桜の木の下に佇む幽霊!」
半信半疑の長谷川少年に竹次郎は熱弁する。
「あれは絶対、幽霊だったって言うんだよ! だから、確かめてやろうって思ってな! 見たのは放課後だし、これなら学校に忍び込まなくたって調査出来るだろ!?」
「上の学年の誰かなんじゃないの?」
そう言うと竹次郎はブンブンと勢い良く首を振る。
「いやいやそれは絶対ない! 学校で見たことない奴だって言ってたんだ! 此処らへんで見ない様な儚げな美少年だったんだから!!」
その時の長谷川少年には儚げな美少年がどんなものかは分からなかった。
「ところで、何で僕ばっかり誘うの?」
そう尋ねれば、竹次郎はちょっと照れくさそうに言った。
「だって、お前だけだったんだ。俺の名前を縁起の良い名前だって言ってくれたの。嬉しかったんだ。たから、仲良くなりたかったんだ」
長谷川少年は目を丸くしていた。
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「──この写真は罰を受けていた時の写真というわけか。この写真の題名は長谷川少年初めて謎解き挑戦するの巻きだね!」
理由のわからない事を言いつつ、相馬は写真を楽しげに眺めている。
罰のゴミ拾いの後、用務員がお詫びにと長谷川と竹次郎宛に菓子折りをくれたのは良い思い出だ。
「──ところで、桜の木の下の幽霊はどうなったの?」
興味津々な相馬に長谷川は眉を顰めた。
「散々付き合わされて結局何も分からず仕舞いだったが……」
長谷川は言葉を止めてちらりと相馬の顔を見た。彼は長谷川とそう年が変わらず、また、非常に整った顔をしている。
少年時代はさぞ美しい容姿だっただろう。
「………、今分かった」
「え! 本当!?」
目を輝かせる相馬に溜息を吐いた。
──証拠がある訳では無い。
しかし、この人しかいないという確信があった。でなければ、長谷川の通学路や友達を知っているはずが無いだろう。
「相馬さん、貴方ですね?」
そう告げれば、相馬は目を瞬かせてから、曖昧に微笑んだ。
「その竹次郎君とは今も仲いいの?」
相馬は分かりやすく話題を変える。
「いや、もう随分会ってないな」
母が亡くなった時に実家は手放してしまい、あの町に長谷川の帰る家はもうないのだ。行くとすれば墓参りくらいだろう。
──だが、今度墓参りのついでに少しだけ会いに行ってみようか。
それも悪くないなと思った自分自身に長谷川は少し驚いていた。
庭の桜の花の蕾は春を待ちわびている。花開くのはもうすぐだろう。