五ツ目
──なんて日なんだろう……。
竹次郎宅を出て、長谷川少年は自宅とは逆方向、小学校への道のりを歩いていた。長谷川少年は宿題を机中に置き忘れてしまった事に気が付いたのだ。しかも、翌日提出分の。
日は暮れかけていたものの、まだ間に合うと思い長谷川少年は学校へと向かった。しかしながら、小学校へ到着した時、空はもうかなり薄暗くなっていた。
長谷川少年は急いで教室へ行き、机から宿題を引っ張り出すと急いで下駄箱に向かった。丁度反対方向から懐中電灯の明かりが見え、その眩しさに驚いて長谷川少年は足を止めた。
「──おや、まだ残ってたのか?」
長谷川少年に懐中電灯を向けたのは、見回りをしていた学年主任の先生だった。かろうじて顔を知っていた為、長谷川少年はほっと息をついた。
「ごめんなさい。宿題を忘れて……」
素直にそう言うと彼は肩をやれやれと肩を竦めた。
「早く帰りなさい。親御さんが心配するぞ」
「ごめんなさい」
そこでふと長谷川少年は思う。
「先生は何時もこの時間に見回りをしているのですか?」
「いや? 用務員さんが見回りしてくれてたんだけどな。その用務員さん腰痛めちゃったんだよ。ほら、男の子がトイレで倒れてた日! あの子も運が悪かったね。用務員さんが見回りしてたら直ぐに気が付いたのに」
先生の返答に長谷川少年はぞっとした。彼の言う事が正しければ、その日誰も見回りをしていないということになる。
──じゃあ、竹次郎君が見た人は誰? やっぱり熱で浮かされてたのかな?
その日の夜、長谷川少年はその事が気になって眠れなかった。
✧✧✧
「──空き巣、捕まったんですって!」
「あら、本当? それなら安心ね!」
「でも、盗まれた物は見つかってないそうよ」
「もうとっくに売っちゃったんじゃない?」
眠い目を擦りながら長谷川少年は通学路を歩いていると近所の井戸端会議が聞こえてくる。
──空き巣、そう言えば竹次郎君のおばさんもそんな事言ってたな……。
長谷川少年は何となしにその会話に耳を傾けた。
「それにしても、加藤さんも可哀想よね」
「加藤さん?」
「ほら、小学校の裏手の家の! 空き巣に入られてご主人の形見の時計盗まれたのよね」
──小学校の裏手の家……。
長谷川少年の足が自然と止まる。
「帰宅したら空き巣と鉢合わせして、怪我までしちゃって……」
「──空き巣に入られたのは何時の話?」
突然、会話に加わった長谷川少年に驚いた女性たちの視線が集まる。長谷川少年も勢い任せの自身の行動に驚いた。
「えっと、何時だったかしら? あっ、ほら小学校で騒ぎがあった日よね!?」
「時間は!?」
「えっ、時間?」
「18時頃じゃないかしら? 日が暮れかけてたから急いで帰宅したって……」
長谷川少年の中で点と点が繋がるような不思議な感覚がした。気が付けば、長谷川少年は学校に向かって一目散に駆け出していた。
長谷川少年は学校につくと早速中庭にある用務員室に向かった。
中庭にある用務員室には鍵がかかっていた為、長谷川少年は入る事は出来なかった。しかし、その側に置いてあるバケツが目に入った。そこには花壇の手入れ用のスコップが入っている。花壇の植え込みをよく見ると掘り返された後があった。
そこを掘ってみると土に埋もれた懐中時計が一つ出て来たのだ。