四ツ目
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──竹次郎がトイレで発見された日。
彼は当初理科室に隠れて真夜中になるまで待つつもりだったらしい。教室とは違い授業以外は使用されておらず、また中庭近い奥まった場所にあって人気が無かったからだ。おまけに鍵もかかっていなかった。
竹次郎は理科室の掃除道具箱の中に身を潜め、夜中になるのを待った。しかし、周囲が暗闇に包まれた頃頃、廊下から足音がした。
──もしかして歩く人体模型!?
竹次郎は恐る恐る掃除道具から顔を出した。周囲は暗くよく見えないが、確かに誰かが廊下を歩いている音がする。
──先生じゃないよな?
その人影は理科室方へと向かってくる。竹次郎は見回りの先生だと思い、見つからないように掃除用具入れの中で息を潜めた。
人影は理科室を見回ると直ぐに出ていった。竹次郎は理科室を抜け出す事にした。
──カランカラン!!
思っていたよりも動揺していたのだろう。竹次郎は箒を倒してしまい大きな音が響いた。
足音が止まり、こちらへと向かってくる。竹次郎は焦って一番近いトイレへと逃げ込んだ。
足音はトイレを理科室の方へと向かっている。竹次郎は口元を塞ぎ、息を潜めた。
理科室の中に入ってからトイレの前を足音が通り過ぎた後、竹次郎がほっと息をついた。
トイレの個室を出た竹次郎は誰がに肩を掴まれ、気を失ったのだ。
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「──気が付いたりゃ、おりぇは家の布団のにゃかにいた」
そう言って、竹次郎は話を締め括った。
「だけど、おりぇがトイレで見つかるまで、だりぇもおりぇを見てないって言うんだ! 言っても、おりぇが夢でも見てたんだろうって」
長谷川少年は首を傾げた。
「先生か用務員さんが見回りしてたんじゃない?」
「おりぇもそう思ったさ! でも、だったりゃおりぇもっと早く見つかるはずだりょ?」
「そうだよね」
竹次郎の言い分に長谷川少年も頷いた。竹次郎の言う事は一理ある。物音に気が付いていたなら、竹次郎はもっと早く見つかってもおかしくない。
「ところで、何で僕にだけ話したの? 皆にも言ったら良かったのに」
竹次郎少年は「そんな事できりゅわけないだりょ!」と言って眉尻を跳ね上げる。
「だって、みんにゃ怖がるだりょ? 心配かけりゃれにゃい」
──僕はいいのか?
心の声が漏れていたらしい、竹次郎は長谷川少年に向き合うと言い放った。それもとても良い笑顔で。
「だって、おみゃえお化けとか怖がったりしにゃいだりょ!」
──何故そうやって決めてかかるのか?
ただ強ち間違っていないため、長谷川少年は答えに窮した。そう言えば、竹次郎は最初から長谷川少年だけを熱心に誘っていた。それはこれが理由だったらしいと長谷川少年は漸く気が付いた。
彼は彼なりに周囲に気を遣っていたのだと、長谷川少年は何とも言えない気持ちになった。
「今日は来てくれてありがとうね! 最近、空き巣が増えてるから気を付けて帰るんだよ!!」
そう言って竹次郎の母親が帰宅する長谷川少年を見送ってくれた。その背にはまだ小さい竹次郎の妹がおぶわれている。
長谷川少年には兄弟はいないが、ちょっとだけ竹次郎の気持ちが分かった気がした。