三ツ目
「──長谷川! お前が一緒に行かなかったから竹次郎が呪われたんだぞ!」
席の前に仁王立ちしている同級生の少年にそう言われ長谷川少年は顔をあげた。
「それ、関係ある?」
長谷川少年の言葉にその同級生達は鼻白んだ。
「なっ!? お前、竹次郎が呪われたって言うのに何だその態度は!?」
竹次郎が熱を出したのは自業自得だろうと長谷川少年は本心思っており、何故周りがそんな事を言ってくるのか理解できなかったのだ。
だが、竹次郎少年に諦めて帰るように言わなかった事には少々後ろめたさを感じていた。納得しない同級生を見て長谷川少年は眉を顰めた。
「じゃあ、僕はどうすれば良いの?」
「そんなの決まってるだろう! 花子さんにお願いするんだ!」
「竹次郎の呪いを解いてくれって!」
「…………」
長谷川少年は周りが引くくらい物凄い渋面を作った。
✧✧✧
その日の放課後長谷川少年は早速トイレへと向かった。
「奥から3番目のトイレをノックするのよ!」
「ノックしたら、はーなこさんって呼びかけるの!」
「頑張って長谷川くん!」
見物するつもりなのか同級生女子数人もついてきている。あの同級生たちが言って回ったのだろう。応援されても、長谷川少年はちっとも嬉しくなかったが。
──コンコンコン
言われた通り3回ノックをするも何も起きない。
「は、はーなこさん」
長谷川少年が怖ず怖ずと声をかける。が、矢張り何も起きない。
「何も起きないねー」
「真夜中に来ないといけないのかなあ?」
女子は女子でそんな事を言い始めた。
──とんでもない!
早く帰りたい長谷川少年は内心焦った。
「きっと呪ったのは花子さんじゃないのかも!」
と女子の一人が恐ろしい事を言い出した。同級生もそれに同調し始め、言いたい放題だ。焦った長谷川少年はどうにかこの渾沌とした状況を打破しようと幼い思考を巡らせる。
そこでふと長谷川少年は思いついた。
「竹次郎君はトイレで倒れていたらしいけど、何処のトイレとは言っていなかったよね」
長谷川少年の言葉に自然と同級生達の注目が集まる。
「竹次郎君は他の七不思議も調査すると言っていたんだ。トイレの花子さん以外の七不思議を調査したかもしれない。まずは竹次郎君がどの順番で回ったのか知らないと! お見舞いも兼ねて竹次郎君の家に行って聞いてみようよ!」
長谷川少年は別に竹次郎のお見舞いに行きたい訳では無いが、何かしら理由があればこの言いたい放題の同級生達から解放されると思ったのだ。
その目論見は功を奏し、長谷川少年と同級生達は皆で竹次郎宅に行くことになったのだ。
✧✧✧
「──はしぇがわ! おみゃえがしょんなどもだいぢおもいだっだとどは! おりぇはがんどーじたぞ!!」
風邪が治っていないのか、彼は鼻声で感動している竹次郎を横目に長谷川少年は同級生を引き連れてお見舞いに行った事を早々に後悔した。
──罪悪感が凄い……。
竹次郎宅を訪れた長谷川少年達は竹次郎の妹・梅子を抱いた彼の母親は「あらあら、竹次郎のお見舞いに来てくれたのかい? 嬉しいねぇ」と心良く家に入れてもらえた。
竹次郎は自分の部屋で布団を敷いて寝転がっていたが、彼等の訪問に飛び起きていた。
「竹次郎君は七不思議を試すって言ってたよね?」
「おぅ!」
「皆、竹次郎君がトイレの花子さんに呪われたんじゃないかって心配してたんだぞ!」
一人の同級生が言うと茶菓子を持って来た彼の母親が「まぁ!」と声を上げた。
「皆そんな風に思ってたの? この子はただ風邪拗らせただけよ! 全くまだ夜は冷えるっていうのに寒い場所にいて、どれだけ心配をかければ気が済むのかしら!」
その言葉に同級生達は目を丸くしていた。
「じゃあ、竹次郎君は呪われたんじゃないの?」
「ただの風邪よ!! もう熱も下がってるから、後数日休めば学校には行けるわ!」
竹次郎の母親が言うと皆ほっとしていた。
誤解が解けたところで、解散しようとしたところ竹次郎に服の裾をツンツンと引っ張られた。何時もの彼と違ってちょっと控えめな様子に長谷川少年は首を傾げた。
「僕はもうちょっと竹次郎君と話したいから、皆先に帰っててよ」
そう言って、長谷川少年は一人竹次郎の部屋に残った。
「──おりぇ、見たかもしんにゃい」
「な、何を?」
嫌な予感がしつつ、長谷川少年は尋ねる。
「トイレのはにゃこさん」
──えぇ……。