最後の手紙を紙飛行機にして飛ばして
青。
一面の大海原を見てまず思ったのはその一言だった。
水面は光を反射して、水平線はどこまでも遠くて。
まるで貴方のようね、と言ったら詩的過ぎるかしら?
海辺のホテル。
崖の上に建つそのホテルの最上階、海側の部屋。
窓を開けてテラスへと出た。
遠く海を眺める。
貴方はあの向こうにいるのね。
学校の同級生だった貴方。
よく図書室で一緒に勉強したものだわ。
いつのことだったか。
図書室でうたた寝をしていた貴方。
一緒に勉強していたはずなのに、気づけば寝ているんだもの。驚くやら呆れるやら。
起こそうとしたところでその口から言葉がこぼれた。
ーーアンジェリカ、俺は君のことが……。必ず、迎えに……。
貴方が寝言で意味深なことを言うから、ちょっと期待しちゃったじゃない。
だから。
ちゃんとした約束もせずに貴方を見送ったわ。
帰って来ない。
これが貴方の答えなのね。
テラスに置かれたテーブルセットの椅子に座る。
真っ白い紙を置いてペンを握る。
いつまでも待っている、そう言えればよかったけれど。
このホテルを出たら貴方を待つのはやめる。
貴方のことを忘れるわ。
そして、父の決めた相手と結婚するわ。
さようなら、も、いつまでも待っている、とも書けないから。
だからせめて貴方の幸福を祈るわ。
ーーどうか幸せでいて。
何度も書き直して。
何度も折り直して。
折り上がったのは紙飛行機だ。
ちょっと不格好ね。
でも仕方ないわ。
初めてだもの。
まるで私の想いのようだわ。
不器用で不格好だった私の初恋。
その想いごと飛ばしてしまいましょう。
立ち上がって手すりに寄った。
落下防止のために高くて私の胸くらいまであるわ。
その手すりに片手を置いた。
もう片方の手に紙飛行機を構え、軽く後ろに手を引き、前へ。
押し出すようにしてそっと手を離す。
雲一つない真っ青な空を引き裂いてどこまでも飛んでいけ。
願わくば。
海を越えて貴方のもとに届きますように。
読んでいただき、ありがとうございました。