ひと時の長旅。
目が覚めると、私は電車の中にいた。どこに向かっているのかと行き先を確認するが、読んでも読んでも頭に入ってこない。不思議な感覚だったが、それがなぜか心地よかった。
外を眺めると夕日で真っ赤に染まった一軒家がずらりとあり、その後ろに少し山が見えた。はて田舎なのか、都会の郊外なのだろうか。そして何故だかわからないが、ただ永遠と乗っていたくなるような心地よさがあった。
そこからどれだけ時間が経っただろうか。
長い間電車に揺られているうちに、時間の感覚がなくなったようだった。途中、何駅か止まったが、それももう随分と前のことのように感じていた。ふと窓を覗くと、外は暗闇になっていた。ただただ電車のモーター音と、ガタン、ゴトンという音が耳元に入ってくる。
ただその音が子守歌のように、私は深く眠りについた。
ふと目が覚めると、少し外の様子が分かるほど明るくなっていた。まずい、どれほど寝てしまったのだろうと考えたが、そんな考えはすぐに無くなってしまった。外の景色が、真っ白の冬景色のようになっていたからだ。
走り続ける電車とは対照的に、皆が徒歩で雪かきをしていたり、歩いている様子が見えた。嗚呼、なんてきれいな景色なのだろう。久しく見ていない雪景色に、とても興奮していた。
景色に見惚れているうちに、電車はトンネルへと入ってしまった。そのトンネルはズンズンと進んでいくが、一向にトンネルを出る気配がない。少し長いだけかと思っていたが、どれだけ時間がたっても終わらないトンネルに私は苛立ちを覚えていた。また雪景色が早くみたいというのに。考えても仕方がない、寝てしまおう。起きた頃には見れるだろう、私はそう思って眠りについた。
どれだけ時間がたったかは分からないが、相当な時間が経った頃。私はやっと目が覚めた。少し寝すぎてしまったかなと思ったが、私の寝すぎという感覚はまだ甘かったらしい。
まだトンネルの中にいたのだ。もはや感じるものは驚きではなく、不思議だった。もうすでにあのトンネルを抜け、たまたま別のトンネルに入っているだけなのだろうか。それとも、あの長い時間ともすべて長いトンネルの中だったのだろうか。私は不気味さを覚えつつ、この電車が次泊まった時、降りてしまおうかと考えていた。もしかしたら止まらないかもしれない。
そんな不穏な考えをしていた時、ブオン、という風が起こすような大きな音がした。窓を見ると、トンネルから出たようだった。私が先ほど見た雪景色のようにきれいな景色を期待していたが、その期待とは裏腹に、白い景色などではなく、外は薄暗い景色と、雨が淡々と降っていた。一軒家が立ち並び、遠くには高いビルのようなものが見えた。少し都会らしさを感じながらも、雨という天気に少し残念さを感じていた。
少しした頃、電車は駅に止まった。扉が開き、少しの間動く気配が無いようだった。駅には屋根がなく、周りには雨避けになりそうなものはおろか、駅舎もなく、周りの家は灯がなく、静かな駅のような感じがした。ふと扉から、雨の匂いが入ってきた。何故だかその雨の匂いがとても心地よく、ふと外に出てみようと思った。
濡れてしまう事はわかっていながら、私の体は外へと吸い寄せられていくように足を踏み出していた。体に雨が触れ、温かさが離れていくような感覚がした。私の体は雨などお構いなしに、駅のホームをずんずんと歩いていく。
歩いていると、ゴッっという音と共に足が引っ掛かった。駅に備え付けてあるベンチだった。なぜだか痛みは感じなかったが、そのベンチの下に何やらブレスレッドの様な物を見つけた。赤色のブレスレットで、錆びていてよく読めないが名前が入っているようだった。誰のだろう。
私はそのブレスレットを見ているうちに気に入ってしまい、少し腕につけてみることにした。どうせこんな誰も来ない様な駅での落とし物だ、少しつけるくらいはいいだろう。
そう思った。
左手首につけたブレスレットは、まるで私がつけ慣れていたかの様に、不思議なほど私の腕に馴染んでいた。少し満足した私は、ブレスレットをつけたまま吸い寄せられるかのように、また歩き出した。
その瞬間だった。
スルッ。
足が一回転するかのように上がり、同時に私の視界も上を向いていた。雨で滑ったのだと直感で感じたが、頭が地面につくと同時に、私の意識はなくなっていた。
目が覚めた時、見慣れた景色が視界に入る。私の家だ。どうやらこれまでの体験は夢だったらしい。少しがっかりしながら体をベッドから体を起こすと、時計を確認し、私は朝食を作り始めた。またいつもの日常に戻るのかと、憂鬱な気分になりながら、朝の支度を進めていったのだった。
自分の左手首に、少し錆びた赤色のブレスレットがついていたことに気づかないまま。
「ひと時の長旅。」 おわり。
ふと、遠くへ行きたいとき。
夢の中だけ、ひと時の旅を。
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