第6話 我が家に小さな訪問者がやってきました。
のんびりと異世界生活を楽しんで5日が経ったある日、扉を「コンコン」とノックする音が聞こえた。
異世界に来て知り合いもいないので訪問者に心当たりはないが、扉まで辿り着いたということは少なくとも敵意がある者ではないのだろう。
そう。私は拠点を作った際に、敵意を持った魔物や人に襲われないよう周囲に結界を張っておいたのだ。
「はい、どちらさまですか…?」
私はそう返事をして扉を開ける。
しかし、扉を開けてもそこには誰も立っていなかった。
「あれ。誰もいない…」
少し不思議に思いながらも扉を閉めようとしたその時、足元から「チュチュッ!」と鳴き声が聞こえた。
声のするほうへ視線を向けてみると、そこには1匹のモモンガらしきものがこちらを見上げながら立っている。
「扉をノックしたのは、あなたかな?」
そう声をかけてみると縦に頷いたので、とりあえず話を聞いてみることにした。
私は対話スキルを発動させ、そのモモンガに話しかける。
「どうかしましたか。」
『っ!?あたいの言葉が分かるのかい?』
「私、そういうスキルを持ってるんですよ。」
『そうなのか。あたいはここから少し離れた場所に住んでるピクシーモマっていう種族なんだ。』
「そうなんですね。…とりあえずここで話すのもなんですし、中へどうぞ。」
そう言ってダイニングに案内すると、マンダリアンを絞った特製ジュースを用意してテーブルに置く。
モモンガさんはお礼を言ってジュースを1口飲むと、ここに来た理由を話し始めた。
まずピクシーモマという種族はとても警戒心が強く、普段は人目につかないよう森の奥に群れで隠れて生活しているらしい。
それぞれ属性の違う魔法を使えるらしく、魔物が襲ってきた時は相手に対し有利属性を持つ者たちが攻撃して仲間を守っているんだとか。
ちなみにモモンガさんは光と聖属性の魔法が使えるらしく、群れでは主に回復や怪我の治療を担っているそうだ。
『それで今日訪ねた理由なんだけど、この家の後ろにある果物をいくつか分けてほしいんだ。』
「果物ですか?」
『あたい達は木の実や果物をよく食べるんだが、そこの果物がすごく美味しそうだったんだ。勝手に採るのはまずいと思ってこうして許可をもらいに来た。』
…あれ。この森には他にも木の実や果物がなってる木はあったはず。
少なくとも私はこの場所に来るまでに沢山見かけたし…
そう思ってモモンガさんに聞いてみると、他は強い魔物がいたり人目につきやすかったりで簡単に採ることが出来ないらしい。
「そうだったんですね。うちのでよければあげますよ。」
『ありがとう。あと図々しいお願いで悪いんだけど、今の住処は食料が手に入りにくいから定期的に分けてもらえたりしないだろうか。』
「そんなに大変な状況なんですか。」
『群れのみんなに食べさせるだけの食料を集めるのは結構難しいな。』
そんなモモンガさんの話を聞いていた私は、ふと1つの案を思いついた。
「あの。さっき今の住処って言ってましたよね。前は別の場所にいたんですか?」
『そうだよ。強い魔物を避けながら生活するから危険を感じたらすぐに住処を移すのさ。』
「…それなら、うちの裏にある果樹園に住みますか?結界を張ってるので敵意を持った者は入れないですよ。」
そう提案すると、モモンガさんは驚いた顔をする。
『いいのかい?』
「モモンガさんたちが嫌じゃなければいいですよ。ここに住んでるのは私と暁だけですし。」
『でも、あたい達だけが得をすることになるだろ?』
「申し訳ないと感じてるようでしたら、裏の果樹園は私が趣味で植えているだけなのでその管理をしてくれると助かります。」
私がそう言うと、モモンガさんは1度住処に戻って長と相談すると言ってきた。
なので、住むことにした場合そのまま引越してくるように伝えるとモモンガさんは頷いて帰っていった。
『さっきの子たちもここに住むのー?』
「1回相談してみるってさ。もし住むなら家の後ろにある果樹園に住むと思うよ。」
そんな会話をしながら、私たちは午後のティータイムを楽しんだ。
その翌日…再び扉をノックする音が聞こえてきた。
「昨日のモモンガさんかな。」
そう思いながら扉を開け下を向くと、昨日相談に来たモモンガさんが立っていた。
「いらっしゃい。」
『昨日、長と相談してここに引越すことに決めたよ。』
「他の皆さんは?」
『その扉の後ろにいるよ。』
そう言われて扉の後ろを覗くと、そこには色とりどりのピクシーモマ達が立っていた。
ざっと数えて30匹ほどだろうか…
「ようこそ。」と声をかけると、その中の1匹が近づいてきた。
『儂はこの群れの長をしている者じゃ。今回の件、大変感謝しておる。』
「私はリリーと申します。この子は従魔の暁です。これからよろしくお願いしますね。」
『これからよろしくね!』
お互いに簡単な挨拶を済ませると、私たちは早速家の後ろにある果樹園へ。
すると果樹園を見たピクシーモマ達は大喜び。
私にお礼を言うと、木に向かって一目散に走っていく…
そして木に登るとそれぞれ好きな果物を採って食べ始めた。
木の上から「おいしい。おいしい。」と喜ぶ声が聞こえてくる。
『リリー…あたい達のために本当にありがとう。』
「私も果樹園の管理をお願いするから、お互い様だよ。」
『食料も住処も提供してくれたんだ。リリーも何かあったらあたい達を頼ってくれよ。』
「うん。何かあったら頼らせてもらうね。」
最初はモモンガさんに対して敬語で話していた私だけど、一緒に生活するからタメ口でいいと言われたので砕けた口調で話すようにした。
モモンガさんは私の言葉に頷くと、仲間たちのもとへ走っていき一緒に果物を食べ始める。
私はその光景を見て、微笑ましく思うのだった…
今日からピクシーモマ達が一緒に住むことになりました。