第3話 やってきました、異世界『バレーシム』!
「…んんっ……ん…?」
何かに頬をつつかれている気がしてうっすら目を開けてみると、視界いっぱいにモフモフの毛が広がる。
モフモフ?と働かない頭を一生懸命動かしながら考えていると、少しずつ意識がはっきりしてきた。
確か私は神域に落ちて神様に会って…それから…
――― ガバッ!!!
そこまで思い出した私は勢いよく身体を起こす。
すると近くで『キュッ!?』という少し驚いた鳴き声が聞こえてきた。
「…白い子狐?もしかして暁なの?」
声がするほうを見ると茜さんと同じ真っ白な毛並みに赤い瞳を持つ子狐が座っていて、私の呟きに「そうだよ!」というように首を縦に振っていた。
呼ぶと膝の上に乗ってきたので、とりあえず暁の身体を撫でながら自分がいる場所を確認する。
青々とした木々に色とりどりの花。近くに水場があるのかどこからか微かに水音が聞こえてくる。
どうやらテルース様は安全な場所に転移させてくれたらしい。
「御魂様の神域とは違う雰囲気の森だな。」
そんなことを考えながらぼーっとしていると『ピロン♪』とメールの着信音が鳴る。
ポケットからスマホを取り出してみると、新着メールが1件届いていた。
メールを開いてみると、差出人はテルース様のようだ。
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無事、儂の世界に着いたようじゃな。
今いる場所は、この世界の中心に位置している『迷路の森』じゃ。
この森は名の通り方向感覚を狂わせて彷徨わせる性質を持ち、生息している魔物も通常より強い。
しかし、ユリには儂の加護がついとるしミタマの使いも一緒じゃから森で迷うことはないし、凶暴な魔物ともあまり会うことはないだろう。
それに、森の中でも比較的安全な場所に転移させたから安心するとよい。
さて、ここからが本題になるが儂から伝えたいことは4つ。
まず、ユリが持っていた機械は2つとも使えるようにしておいた。
この世界でいう魔道具と同じ扱いになる。
悪用されないようユリとユリが許可した者以外は扱えないようにしてあるから、お主以外に許可を出したい場合は頭の中で念じると使えるようになるぞ。
次に、この手紙を読んだあと自分のステータスを確認してみること。
儂が鑑定スキルを授けたからユリは自分で見ることが出来るが、鑑定スキルを持つ者は少ないから持っていることは公にしないほうがいいじゃろう。
ついでに悪用されないようステータスを隠蔽したり、修正したり出来るようにしておいたから何かあれば使うように。
その次は、ユリと一緒にいる子狐のことじゃ。
どうやら名を与えられたことで、儂の世界に来た時に進化したらしい。
まだ小さいもののそれなりの力は持っておるから可愛がってほしいと、ミタマが申しておったぞ。
『対話』のスキルがあるから、それを使えば子狐とも話せるようになる。
最後に、この機械で儂やミタマと連絡が取れるようにしてある。
何か困ったことがあれば気軽に連絡をくれ。
もしくはこの世界の国には必ず教会があるから、そこに足を運び祈りを捧げれば会うことも出来るじゃろう。
では、新しい人生を楽しんでくれることを祈っておる。
創造神 テルース
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「新しい人生か…ていうか、神様と連絡取れるんだ。」
スマホを通して神様たちと連絡が取れることに驚きと安堵を覚えつつ、まずはメールにあった通り自分のステータスを確認してみることにした。
「えっと、ステータスを見たいときは…って……うわっ!」
ぽつりと呟いた私の目の前に、突如ステータス画面が現れる。
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【名前】リリー(ユリ・カンザキ) ♀
【年齢】27
【種族】人族
【職業】――
【LV】1
【HP】75/100
【MP】25000/25000
【称号】神に巻き込まれた者、異邦人
【固有スキル】情報端末
【スキル】
言語理解、無限収納、鑑定、創造
従魔術、対話、火魔法、水魔法、土魔法、植物魔法、時空魔法
【加護】
創造神テルースの加護
異世界の神の加護(宇迦之御魂神)
【従魔】
アカツキ(天狐)
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ふむふむ。私のステータスはこんな感じか。
無限収納は時間停止機能付きだし、どんなものかまだ分からないけど魔法もいくつか使えるようだ。
(…そういえば、対話スキルを使えば暁と話せるんだっけ。)
ふとメールの内容を思い出した私は、頭の中でスキルを使うイメージをしながら暁に声をかけてみる。
「…暁?」
『なーに、呼んだ?』
「わ、暁の言葉が聞こえるよ!」
『ほんと?これでリリーといっぱいお話できるね!』
私と話せることが分かった暁は、嬉しそうに私の周りを駆け回る。
そんな暁をついでに鑑定してみると、天狐らしいステータスを持っていた。
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【名前】アカツキ ♂
【年齢】1
【種族】天狐
【LV】1
【HP】60/100
【MP】18000/18000
【固有スキル】幻術、言霊、千里眼
【スキル】火魔法、植物魔法、時空魔法
【加護】
異世界の神の加護(宇迦之御魂神)
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…今はまだ小さいけど、いつか九尾を持つ狐になったりするのだろうか。
そんなことを考えながらスマホで時間を確認すると、時刻は14時15分。
まだ分からないことも多いけれど、とりあえずお腹も空いたしお弁当でも食べよう。
そう思った私は鞄からお弁当を取り出し、暁を呼ぶ。
「お腹空いたし、まずはごはん食べよう。」
『おいなりさんの匂いがする。』
「そうだよ。暁が食べたものと同じいなり寿司が入ってるよ…食べる?」
『食べたい食べたいっ!』
いなり寿司が食べれると分かった暁は、私の隣に座り尻尾をぶんぶんと嬉しそうに振る。
その姿に苦笑しつつ蓋にいなり寿司を載せて渡すと、勢いよく食べ始めた。
『おいしい!僕このおいなりさん大好き!』
元の世界に帰れなくなったのは一体誰のせいだったか。
そんな思いを込めてじっと視線を送ってみるが、当の本人はいなり寿司に夢中で気づかない。
(まあ、こんなに美味しそうに食べてたらあんまり怒れないな…)
そう思いつつ、自分用に残しておいたいなり寿司を口に運ぶ。
味がよく染みていて美味しい。我ながら上出来だ。
『ねえねえ、他のも食べたい』
「いいよ。はい、どうぞ。」
『もぐもぐ…この緑のやつも…もぐもぐ…この黄色のやつもおいしい!』
「それはいんげんの胡麻和え、そっちはだし巻き卵だよ」
食べてるおかずを順番に説明してあげると「これも好き!あれも好き!」と返事が返ってくる。
…結局、お弁当はほとんど暁のお腹に吸い込まれていった。
私のお腹はあまり満たされなかったが、美味しそうに食べる暁の姿が見れたから良しとしよう。