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私が2次元を嫌いな理由

作者: 本田ゆき

「マジで◯◯大好き~めっちゃ推し!」

「え、有紗◯◯好きなん? 私は××が好き~」

「あー、そっちも良いよねー、でも××死にそうなってなかった?」

「そうなんだよ~! あの漫画マジで容赦なく死んでくからさ」

「推し作るなとか言われてるよねー、でも好きになるの仕方なくない?」

「だよねー」


 教室ではキャッキャと3人の女子がはしゃぎながら今人気の漫画の話に花を咲かせていた。


 私はそんな声を聞きたくなくてそっとワイヤレスイヤホンを取り出して曲を再生した。


 そっとワイヤレスイヤホンから優しいピアノの音色が聞こえて私はほっと胸を撫で下ろす。


 まだこの旋律が聴ける事に感謝した。




 時は残酷にも過ぎていき、あっという間に1年が経ち、私は高校2年生になった。


 放課後、コンビニに寄ってお菓子を買った私は病院へとやって来た。


「あー、友希(ゆき)、それ新作? 美味しそう!」


 病室へ行くと私の友達、心音(ここね)がベッドから起き上がり、まるでどこも病気だとは思えないほどすっきりとした笑顔で話しかけてきた。


「うん、前に話してたプリン味と、後心音が好きなやつ色々」


 私がコンビニ袋ごとお菓子を渡すと、心音はキラキラとした瞳で嬉しそうに受け取った。


「いつもありがとう~!

持つべきものはやっぱり親友だね!」


 心音はうきうきとコンビニ袋を漁ってお菓子を取り出して、当たり前の様に半分私に渡してきた。


「はい、どーぞ!」

「どうも……てか、あんたにあげたんだからあんたが全部食べても良いのに」

「全部食べたら太っちゃうじゃ~ん!」


 冗談っぽく笑いながら心音はそう話すが、実際の彼女はかなり華奢で太る心配なんて全くない様に思える。


「あんたが太るとか嫌味か」

「えー? でも食っちゃ寝ばっかでさ、本当豚みたいな生活してるしさ~」

「それじゃあ豚さん、今日もお礼頂戴よ」

「もー友希! 豚だなんて失礼な!」

「自分で言ったんでしょ」


 心音はぶつぶつ文句を言いつつ、電子キーボードをベッドの側に引き寄せる。


「リクエストある?」


「じゃあカノン」


「いいよー本当友希ってカノン好きだよね」


 それから心音はすぅっと一呼吸した後、泣きたくなる程綺麗なピアノの音が病室を包み込んだ。


 私は受け取った半分のお菓子を手に持ちつつ黙って演奏を聴きながらスマホで録音する。


 私が1日で1番好きな時間。



「……ふぅ、どうだった?」


「最高だった」


 私はいつものトーンで絶賛しながら、録音したスマホのファイルに今日の日付を登録した。


「全く、友希のお陰でおちおち死ねやしないねぇ」

「死ぬ気なんてないくせによく言うよ」


 軽口を叩く心音に私はやや強い口調で反論する。


「あはは! 確かに死ぬ気なんてないね!」


 笑って答える心音に、私はそっと質問した。


「……調子、どうなの?」

「ん? ピアノならいつも通り絶好調だよー。何せ誰かさんが毎日リクエストするから全然腕も落ちないしー」

「ピアノじゃなくて、体の」


 悠長に話す心音に若干イラつきつつも私は改めて質問する。


「あー体の方ね、見ての通りすっごく調子良いよ! 今は食べ物の制限もないからお菓子も食べれるし、ピアノも弾けるし!」


 心音は全く出来てない力こぶを作るポーズをして見せた。


「じゃあ、退院出来るの?」

「私的にはいつ退院しても良いくらいなんだけどね~」


 明るく話す心音の声に少しホッとする。


 今ではこんなに元気になった心音も、1年程前に病気が見つかってすぐの頃は息をするだけでも辛そうだった。


 だからこうしてお菓子を食べてピアノを弾けるまでに回復したのは本当に喜ばしい事だ。


「じゃあまた明日」

「うん! また明日!」


 そう言って心音は元気に手を振って私を見送った。


 その言葉が彼女と話す最期の言葉になるだなんて、思いもしなかった。




「◯◯死んじゃった……マジでショック~」

「推しが死ぬと辛いよね~」

「マジ今日家で寝込もうかと思った……はあ、何もやる気出ない……」



 心音の葬式が終わり、学校へと登校するとそんな声が聞こえてきた。


 吐き気がする。イライラする。


 架空の人物が死んだからやる気出ない?

 寝込みたい?


 沢山人が死ぬ漫画読んでるお前の自己責任だろ?


 そもそも2次元ならいくらでも人を殺せるもんね。ご都合主義で殺されるキャラクター、物語に消費されるだけの存在。


 そして作者の思惑通りまんまと嘆くファン。


「下らない……」


 良いじゃんか、架空の人物が死んだって、ファンアートなり何なりで存在は残るんだから。


 作者の気分次第ではまた見れるかもしれないなら良いじゃないか。


「私だって……」


 小さく呟きながら私が席に着こうと屈むと、鞄からかちゃりとワイヤレスイヤホンのケースを落としてしまった。


 そのケースを拾う途中、私の手がぴたりと止まる。


「あ……」


 そうだ。


 そうだった。


 残ってるじゃないか。私にだって。


 心音が残してくれた沢山の音色が。


 私は拾い上げたワイヤレスイヤホンのケースからワイヤレスイヤホンを取り耳にはめる。


 それから彼女の最期の演奏を再生した。


 もう会えないけど。


 もうあなたは存在しないけど、でも確かに生きていたんだ。


 その証はしっかりと残っている。





 ああ、そう言えば、心音も漫画が好きだったっけ。


 でも私が読まないからって私の前では漫画の話しなかったんだよなぁ。


 もっと心音の好きな話聞いてあげれば良かった。


 他にももっと色々話したい事いっぱいあった。


 もっともっと、話していたかったよ。


 お礼だって言いたかったよ。


 でももうあなたは居ないから。


 今後はせめて、後悔のない様、生きてみるよ。

 漫画の推しキャラが死んだのでその情緒不安定なまま殴り書きました。

 後悔はしていません。

 私は2次元大好きです。

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