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8 思惑

斎藤玲点の場合3

昼の11時前。

玲点の家族一同揃ってテレビを見ていた。


『さてさて、お楽しみの4度目の氷鬼ごっこの時間がやってきました。異存の無いように外を駆け回りましょう、それでは、5秒前、4、3、2、1、スタートです』


ウィーーン

追いかけられている人にも、追いかけてる人にも、見ている人にも胸の痛む時間だった。


『そして、同時刻に抽選会の時間がやってきました。本日付で、昨日殉職なさったじいの代わりに新たなじいに就任した七師優(ななしまさる)さんがやってまいりました。挨拶をお願いします』


殉職?

玲点はピンときた。国王に、あるいは命令された兵士にじいは殺されたのだろう。

えらく歳をとったお爺さんが前に出てきた。手ぬぐいを頭に縛っている。


『皆さんこんにちは。七師優と申すのじゃ。宜しくなのじゃ。趣味は囲碁と盆栽いじりと、ゴルフを嗜んでいるのじゃ。国王には度々、休暇を頂いている時勢じゃ、また裁縫や金属加工するのも得意じゃ、それから』


ばし!

続けて言おうとしたところ、国王が扇を片手に叩いた。


『もういいです、もういいです。ありがとうございました。なかなかユニークなおじいちゃんがじいになられて我々としても嬉しい限りでございます。時間がおしてまいりました。早速5度目の抽選していただこうと思います』


司会は冷や汗をかいているようだ。


『それでは、引くぞ』


国王は平等になるようにぐるぐると箱の中身を混ぜている。

玲点は手に汗を握らせている。


『60』


国王のその言葉にテレビの観客からざわめきが起こった。

『お静かに!』


玲点は思わず笑みを浮かべた。


「あははは! チェックの手紙が届いたんだ!」

「どういう事?」

「あの60ボールは、国王のつけている指輪の鉄に、くっつくようにマグネットのボールになっているんだって! チェックがセンターに手紙に置いてきたらしい。国王は60歳だもんな」


玲点は優がやってくれたのだと思うと、感謝しかなかった。後は選ばれる人が自分以外だといいのだが。


『次引くぞ!』


国王は何も気がついていない様子で、もう片方の手で、ボールを編みのかごに入れる。そして箱に手を突っ込んだ。


『28、44』


ここまでは計画通りだった。


『11』

「え?」


玲点は思わず声が出た。

11歳?

晴れていた目の前が真っ暗になったようだった。

終わった。俺の人生。


「大丈夫、国王さえ捕まえれば氷鬼ごっこは終わるはず。明日は王政府に向かうぞ。玲点はチェック君とペケちゃんと行動しろよ」

「夢は置いていくのか?」

「友利さんに任せるわ」


玲点は「分かった」と言ったもの、心境は絶望的だった。


『はい。決まりました、明日の氷鬼ごっこの子は11、28、44、60歳です。家屋に隠れているのはおすすめしません。肩のチップで家屋にいるものは兵士が鬼に告げ口しますので、なるべく外を走りましょう。……なんですか? 国王も氷鬼ごっこに参加しているのかですって? 当然不平等を訴える国王も参加者でしょう』


バシーン!

そう司会が話した瞬間だった。

国王は扇を下に叩きつけた。興奮して頬を紅潮させている。


『私を狙った者は即刻射殺する。いいか、即刻、殺すからな! 私は帰る! さらばだ』


国王はどしんどしんと怒りをあらわにした、がに股の歩き方で姿をくらませた。兵士は扇を拾い、後に続いていなくなった。

玲点はチェックに連絡を取ることにした。


『もしもし、俺、玲点、チェック平気か?』

『僕もちょうどかけようとしていたとこだよ。選ばれちゃったな。父ちゃんはクラスの皆の住所訊いてくるけど、無視してる』

良輔(りょうすけ)さんだっけ?』

『そうそう、柴崎良輔だよ』

『そっか、まあ、仕方ないことだな。今の子、足速いから捕まえられるかな?』

『そんなことより、アホ王を捕まえようって言ってみるよ』

『俺の家族もアホ王一点張りだ、ともかくどこかで落ち合おう、朝ストーカーされたら溜まったもんじゃねえ』

『ペケは?』

『呼ぶな、もう氷鬼ごっこには関係ないんだ。心労を増やすな』

『だってさ、ペケ』


だってさ、ペケ?

玲点はまさに度肝を抜かれた。


「もしかして、ペケがいるのか?」


『玲点、私はまだ借りを返してないの。一緒に行動させてよ。邪魔にならないから』

『なんで、ペケがいるんだよ!?』

『なんでって、ちょうど買い物行って近くまで来たから。あとチェックが怯えていると思って』

『お前たちできてるのか?』

『そんなんじゃないよ! ペケは玲点が好きなんだから』

『こらあ! ばらすのやめてよ!』

『いやそれは知っているけど。まあいいや、これからチェックの家まで行くから』


玲点の視線の先にドアの隙間に目があってギクッとした。

話を盗み聞きしていたかのように、トムは玲点の部屋に入ってきた。


「チェック君の家は危険だ。良輔さんがいるからな」

「じゃあどうすんだよ」

「島野友利さんの家に行け。これ住所と地図」


トムは玲点に紙を押し付けると、何事もなかったかのように去っていった。


『もしもし』

『良輔さんに捕まるかもしれないから、とりあえずお前ら、俺の家まで来い!』


玲点は強く命令する。


『なるほどな、一理ある』

『じゃあ、待ってる』


玲点は電話を切った。そして、ケータイと財布だけ持って、身軽な格好をした。



七師優の場合


朝の10時になると兵士を集めるだけ集められた。長年戦争など起きていないので、敵ではないかもしれないが、いるだけでも心の安定につながるらしい。鎧や兜をしている兵士は馬子にも衣装と言った感じだ。しかし全員、拳銃を持っている。

もちろん、国王を守るつもりは毛頭ない。守るふりをするだけだ。

時間はあっという間にやってきた。

10時30分の放送は耳が痛い。そして11時のサイレンが聞こえてくる。


ウィーーン


しばらくした頃だった。時間は20分経過していた。


「大変です! 国民たちが手におえません」


1人の血だらけの兵士が王の間の元にとびついてきた。太ももの辺りを銃で撃たれたあとがあった。


「おらおら、どけどけ!」

「国王覚悟!」


国民達は鬼の格好をして国王の首を取りに来た。守るふりをする兵士達。


「一度言ってみたかったんだ。そらとぶ玉座! スイッチオン!」


国王は椅子の下のスキマにある赤いボタンをおした。

4つの椅子の足についたドローンが椅子と国王を浮かせる。天井の大きなゼンマイが回って天井から空が見えた。国王の両手には、いつの間にか黒いコントローラーを持っていた。


バン!


「国王様、ぐ!」


国王を守った1人の兵士が死んでいった。


バンバン!


「ぐははは、さらばだ」


国王は防弾チョッキをつけているため拳銃は効かないようだ。上空へ国王は逃げていった。

兵士と鬼の大乱闘が始まった。しっちゃかめっちゃかだ。


「待つのじゃ! 我々は君たちの敵ではないのじゃ! 我々も国王の勝手に参っていたのじゃ。国王が捕まればもう兵士は自由じゃ! 我々力を合わせて国王を捕まえようぞ!」


優はバンザイではなく手の平を見せ、降伏するようにあげた。

それを見た兵士達は兜をとり、手を上げた。


「そうだな、ここで戦力を減らすのはいかがなものか?」

「こうなったら全員で国王を捕らえるぞ!」

「「「おー!」」」


全員は満場一致して国王を捕まえることになった。

優は城の2階に上がり、窓から様子を見た。

国王は上空を翔びつつ、繁華街の方へ進んでいく。国王の足元の地面には、追っかけしている鬼達。

人のいる繁華街で降りるつもりなのか? そうそう翔ぶには充電が必要でたまらない。どこに行くつもりなのだろうか?

国王はアパートの屋上にひと休みするためか、降りていった。そこにはパラソルがありチェアもあった。屋上の入る四角い入り口には爆薬でも入ってそうな木の箱が置いてあった。

そのアパートに鬼の皆が将棋倒しのように殺到している。2万人は、いそうな気がした。


バン! ドドドーーン!


アパートの屋上への道が爆発した。やはり爆薬だったのか。ならば国王の耳の鼓膜を破ったに違いない。しかし、国王はすでに上空へ避難していた。このせいで多くの鬼が戦闘不能になった様に見える。

国王は移動した。

鬼を乗せたであろうヘリコプターが近づいている。

国王はヘリコプターから逃げるように平行に移動した。しかし、反対側にもヘリコプターが飛んでくるのを目にすると徐々に下へ降りていく。ヘリコプターの真下を通過した。

ヘリコプターの鬼は国王を射撃するも当たらない。素人に拳銃を持たせても当てられるわけがなかった。

後25分以内に捕まえられるのか?

国王の玉座の移動はなかなかに速い。

優にはよく目を凝らさなくては見えないほどになった。

たぶん捕まえられるだろう。捕まえられなかったら処刑されてしまう。

捕まれと願わんとする優だった。

国王は森の方へ向かっていった。そしてついに、玉座を捨てた様に見えた。


読んでくださりありがとうございます。


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