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6 救出

宮内淳子の場合


まさか自分が選ばれるなんて。そう聞くと普段ならなにかの賞でも獲ったのかときかれるだろうけど、そんな人は平手打ちしてやりたい。選ばれたのは氷鬼ごっこの子だ。

淳子は48歳になったばかりだった。当然一緒に住んでいる人もいる。旦那などではない。兄と暮らしていた。30歳位の時からずっと、2人は良縁に恵まれず、人と付き合っても1ヶ月以内に別れる魔法でもかかっているかのごとく振られ続けている。それは兄も同じだ。お金もないので二人暮らしを続けている。生活費は折半。家事も曜日を決めて半分に分けてやっている。

淳子はビールを片手にベランダから下を見ていた。

ブブー!

肩のチップが連動した。

ここは4階。流石に鍵を開けてこないだろうと高をくくっていた。

下には追いかけられる者と追いかける者、そして、そんな光景を見て哀れな目を向ける者がいた。

そんなときだった。上を向く成人の背丈の鬼と目があった気がして、淳子は顔を引っ込めた。

ビールを飲みながら、玄関へ移動する。

鍵はしまっている。

誰かの密告以外には、この部屋に子が隠れているとは分からないはずだ。


「はあ、はあ」


息が苦しく涙が出る。いやこれはビールを飲み込んでできた、アルコールの反応によるものだ。

淳子は部屋の隅に留まり、毛布を頭からかぶっていた。

バン! バン!


「ひっ!」


玄関の方から銃声が聞こえた。

そんなはず……。

玄関の鍵が脆くなり、落ちた音が聞こえた。

淳子は失禁していた。


「ビールのせいよ!」


淳子は酔っ払っているから変な音が聞こえるのだと結論づける。

数人の鬼達は部屋に入るなり、淳子を取り囲んだ。


「ビールのせいよ」


そうこれは酔っ払って見える幻覚、妄想、夢のはず。早く起きろ早く起きろ早く起きろ。

淳子は毛布にくるまって目をつぶった。


「ご苦労さん、お眠りよ」


中年の男性の声が淳子に眠りを誘った。


斎藤玲点の場合2


ベルの合図と共に、国王の抽選会もスタートした。


『明日の氷鬼ごっこの番号を発表する』


昨日佳代子と話し合って、いい案が浮かんだ。

センターに手紙を届けられれば、それに従ってくれるかもしれない。しかし、やはり運によるところが大きい。思う番号が出ればペケを助けられるはずだ。

冷房のかかった部屋で玲点はアイスをくわえながらテレビに注目していた。


「今日は何歳が選ばれたんだ?」


13時になる前にトムはビールをごくごく飲みながら、帰ってきた。

母の海桜は出かけているようだった。

玲点は11時45分に友利と入れ代わりに家に入った。海桜の現状を聞いて胸が苦しくなった。


「5、27」

「27!? 嘘だろ? きたきたー! よっしゃ! 村上先輩、選ばれてやんの! プクク、ザマーミロ!」


トムは興奮してビールを飲み終えると、缶をグシャと潰した。


「29、36」

「……29!? 嘘だろ?」


トムはまるで天国から地獄へのハーフマラソンを言い渡されたかのように、ソファに座ると、ガックリとした。そしてその後、玲点に詰め寄った。


「騙してんじゃねえだろうな?」

「嘘じゃない。それよりも親父、協力してくれないか? これならペケを助けられるかもしれない数字なんだ!」

「ペケちゃん捕まっちまったのか?」

「ああ、捕まったよ」

「これからペケの家で作戦会議しよう」

「なんだか知らねえが、俺は自分の命のほうが大事だ! やんねえーよ」


ちょうど言い始めた瞬間に玄関のドアが開く気配がした。


「あなた! 子供の意見を少しは受諾なさい!」

「海桜、どこ行ってたんだ! 俺、選ばれちまったんだぞ! 少しは俺のケアちゃんとしろよ!」

「お袋、多瑛梨ちゃんは?」

「ちゃんと送り返したわ。……あなた、行くわよ」

「仕方ねえな」


トムは昔から海桜に甘かった。

ペケの計画を海桜に話したのは賢明な判断だったようだ。


佐藤王の場合2


今日、7月27日氷鬼ごっこの三日目が行われる。現在の時刻は朝の8時。


「じい、昨日の成果はどうなのだ?」

「はい一千万人のコールドスリーパーが決められました」

「残りは二億八千万三百万位か。戦死者は何人だ」

「二百五十万程です。それよりも、各地で暴動が起きています。収まりがつかないので、もう氷鬼ごっこなど止めましょう! 鑑賞して楽しむなどはしたないですぞ」

「……おいお前、此奴を撃ち殺せ」


国王は玉座に座りながら扇で指し示しながら、近くにいる兵士に申した。


「へ?」

「お前に言っている、従わねば殺す」

「我が君、申し訳ありませんでした。私を殺したら、まとめ役がいなくなりますぞ。私は国王の教育係でもあるため不躾なことをのたまいました。どうかお許しを」

「もうそのような戯言もいい。私を侮辱したのだ。殺せ、3秒以内だ」


国王は今度は扇で顔をあおがせて言ってのけた。

兵士は腰にあった拳銃を前に構えた。


「3、2」


1と言うが速いか、撃つ方が速いか、兵士はじいに向かい発砲していた。息を荒くさせながら。


パン! パン!


血を吐いたじいは静かに死んでいった。銃弾は左胸と首にあたったのだ。血の色が鮮明にその場に残る。


「国土の隅にでも捨て置け」


そして国王は亡骸を兵士達に運ばせた。


「片付け終わったら、新たな私専属の執事を1人用意せよ」

「「「はい」」」

「小うるさい元じいがいなくなって、やっと羽が伸ばせるものだ」


国王はゾクッとさせるような声で発言した。

もう反発できる因子は無いだろう。



柴崎チェックの場合2


チェックは10時55分に塔のようなセンターへの道を犬を引き連れて歩いていた。リードを繋いで完全に散歩している状態に決め込んでいた。誰も何も言わない。


『いよいよ時間が過ぎようとしています。……5、4、3、2,1、開始!』


ウィーン

一本離れた曲がり角のギリギリのラインで犬に❞待て❝をさせた。

11時12分になって、3人の鬼に追われているトムはセンター前の十字路を直線に突っ切る。

そこで更にセンター前にいた、5人の鬼を引き連れることになった。

そこで麻林家の愛犬、バツの出番だ。既にペケの匂いのハンカチを嗅がせていた。


「よし、行け!」


バツは俊足の足でセンターまで駆けていく。センターの前で見張りをしている女性たちに動きを止められた。

熱中症予防の為だろう、被り物を脱いだ3人の女性がバツに気がついた。


「捕まえてください!」


チェックは大声で頼んだ。

3人はバツを捕まえて、撫でた。

その時だった。

3人はビリビリとした鈍い音に襲われて倒れた。

鬼は子を捕まえるときは、鬼のコスプレをしていなくてはならないのだ。それ以外で鬼は子に触って捕まえようとするのは禁止事項違反に摘発される。

バツはセンター内に入っていった。



センター方面からチープな音で不気味なカノンのサビの部分が流れる。


『センターに到達した子が出ました。さあ20分間の猶予が与えられます。どれくらいのコールドスリーパーが助かるのでしょう、ここは注目です』


チェックもセンターに向かった。倒れているお姉さんは失神している様で立ち入ることは簡単にできた。中には水晶のような色(おそらく触感もだろう)の棺桶がずらりと所狭しに並んでいた。

1階、2階、3階……50階のエレベーターのボタンがある。


「バツ」


チェックはバツを探すも見にくくて分からない。なので名前を呼んでみた。


ワン!


バツは右の斜めの方にある棺桶に乗っかって、足を動かしていた。

まさにここほれワンワンと言っているようだった。

その棺桶まで走っていくと、麻林ペケと書かれたネームプレートが棺桶の上の方に付いている。顔は切り取られた四角の窓でペケの顔が見える。眠っているようだ。初日に捕まったのが不幸中の幸いだ。なぜなら1階以外だと探すのが大変だからだ。

棺桶の中央に青い大きめの宝石のようなチップがついてあった。

リードでバツの身体を引っ張り、その青いチップに、バツの肩に付いた赤いチップをかざした。


ジュー!


棺桶の石が赤くなった。そして、その蓋が開かれた。


「ペケ! ペケ! 目を覚まして!」

「う、……ううん」


ペケはチェックが身体を揺り動かすので、気を取り戻した。服は白くダボッとしたワンピースを着ていた。


「……チェック?」


ペケは気の抜けた声を放った。


「ペケ、良かった!」

「もしかして助けに来てくれたの? ありがとう」

「そうだよ、僕一人の力じゃないけど。皆に言ってやって」


チェックは上半身を起こしたペケを抱きしめた。ペケは思った以上に冷たかった。

ペケは前腕内側に貼られ、刺さっている点滴の針を抜き取った。


「ここから出よう、皆待ってる」


チェックはペケの足元がおぼつかないので肩を貸した。そして、ある紙を棺桶に入れた。掃除に来る兵士が見ることを願って。


ワンワン!


「あれ、バツもいる?」

「そう、バツが子に選ばれてセンターにたどり着くことができたんだ」

「犬でもいいんだ」

「一緒に住んでいる家族だから。定義は曖昧なんだろう。っていうのもな、バツにも鬼の衣装が届いたんだ。だから行けるってな?」


やはりチープな演奏の❞蛍の光❝が流れた。


『20分経過しました。速やかに退出してください』


その場に冷酷な印象を与える女性の音声が流れた。20分しか自由に助ける時間を設定しているところを見ると、国王は子を蘇らせるのが嫌なようだ。

センターから出ると直射日光に2人と1匹はあたった。


「うぇええん、怖かったよう」

ペケはチェックの肩に大粒の涙を流した。


「それだけ元気ならもう大丈夫。明日は4日目か」


チェックは涙するペケにドギマギしながら返答した。

センターの前には誰もいなくなっていた。

2人はペケの家までゆっくりと重い足を左右に出していった。


ワン!


バツの吠えた声に軒先まで玲点とトム、海桜、夢、ミスが出てきた。


「ペケ! 良かった、無事だったんだ!」

「ありがとう、皆」


ペケは目から水分を出している。

海桜はハンカチで優しくふいた。


「ところで海桜、誰を捕まえたんだ? 俺が逃げているうちに」

「俺が捕まえた。マンガ喫茶の個室に隠れていた名前の知らない29歳の男」


玲点は淡々と話した。


「そ、そうか、うん、よくやった!」

「よく見つけられたわね」

「自分が隠れそうな場所を洗っていったんだ」


玲点はバツを撫でながらつぶやく。バツは氷鬼ごっことは除外されたのだ。


「あんまり、自分を責めるなよ」

「大丈夫だよ」

「そういえば、明日の子はもう決められたんだよな、何歳だ?」

「18,33、59、61歳だよ」


その場の皆は愁眉を開く。


「当たりはいないな」

「いないよ」

「僕もです」

「私も」

「あたしなんてひとり暮らしなんだよ、家族の内、子を捕まえなかったらって言うけど、鬼がいないんじゃ捕まえよう無いよ。問答無用でコールドスリープだよ」


ミスは身震いをした。

ひとり暮らしの人は即刻捕まるので選ばれてしまったらおしまいだ。きっと怯えている人がいるだろう。

とにかく明日は休息できる。休めるうちに休んでおこう。

チェックは帰りながら、玲点に「作戦は遂行中」と喋った。

氷鬼ごっこの終わりを告げるベルが鳴った。正午の鐘も聞こえてきた。


読んでくださりありがとうございます。


面白い、続き読みたいと感じましたら、下のブクマ、★評価、感想などお待ちしてます。

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