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【最強】と姫


「サナス先生の旅先の足取りをたどりましたがは姉様の予想通り鷹のバッジを持っていました」

「ではやはり先生を裏切らせたのは【ガロトニア】の奴らか、ヴェインのやつはなにか吐いたか?」

「いえ、ヴェインは固く口を閉ざしています」


 レインとエレナの話声で目を覚ます、目の前には見知らぬ天井、そして横には薄い光を放つランプが置いてあった、横の窓を見るとまだ薄暗い。

 斬られた時の体の痛みはもうない、手や足を軽く動かすがしっかり動く、回復魔法とやらがしっかりと効いているようだ。

 そして話を聞く限りどうやらまだヴェインは生きて独房にでも入れられているらしい。


「ああ・・・怪我人の前で騒がしくするなよ、お前ら」

「騎士様!起きたのですね!」

「なっ、あの傷でもう動けるのか?いくら回復魔法をかけたとはいえ・・・自己回復力も化け物並みだな・・・気持ち悪いほどだ」


 俺が立ち上がって元気に肩を回すとレインは歓喜し、エレナは驚き俺の回復力に顔を引きつらせている。

 相変わらず失礼な女だな、もう少しいい言葉あるだろ・・・・


「それで、そのガロトニア?ってのはなんなんだ?」

「ヴォルドベルク連邦に存在する最大の過激派左翼組織だ、奴らは民衆の総意の代弁者と自称し各地で革命と称す事件を起こしている、簡単に言うと民の味方で貴族の敵と考えておけばいい、奴らは仕王選を民を苦しめる無意味な戦争と位置づけている、そして奴らはみな鷹のバッジを身に着けている」

「なるほど、それにサナスは加担したってわけだな・・」


 俺はサナス達を殺してしまったが、もしかして殺人罪とかに問われるのか?いやあれは正当防衛だし・・・いや過剰防衛か?独房で臭い飯だけは嫌だぜ・・・

 俺が捕まることを恐れているとレインが尊敬の眼差しを向け顔を近づけ聞いてくる。


「まさか、あれほど強いとは御見それしました騎士様!」

「まぁな、俺はあっちの世界では【最強】だったからな」

「さ、最強・・・すごいです!どうやったらそこまで強くなれるんですか?」

「そりゃやっぱ、大人の階段を上ることだ、例えば女を抱く、とかな」

「女の人を抱いたら強くなれるんですか?姉様僕を強くするため抱かせてください!」

「貴様・・・弟に変なことを吹き込むな!」

「いたっ、なぐんじゃねえよ!」


 どうやらこのテンションなら俺が恐れていた罪で独房に入れられることはなさそうだ。

 レインは17歳なのに随分しっかりしていると思っていたがまだまだ頭の中は子供のぽいな。

 血だらけの包帯を取り、服に着替え外に出る。

 エレナによるとようやく俺は姫様に出会えるようだ。


 俺は連れられ城を出て日が昇る早朝の街を歩く、狭い空間でいろいろあったせいか時の流れを長く感じ、久々の外の空気が美味い。


「城にはいないのか?」

「姫を殺したい奴はまず普通城にいると思うはず、その先入観を利用する。城は守りは固いが先ほどのようになにがあるかわからん、ならば守るより隠したほうが話が早い、私はそう判断した、その隠し場所はこのハインツ家の居城から少し歩いた場所にある」

「なるほどね」

「そういえば騎士様は姫様の騎士になる気になってくれたでしょうか?」

「ああ・・・それは姫を見て守るに値するか考えてから決めるって言ってるだろ」

「すいません、相当戦いを楽しんでいるように見えたので・・・」

「まあ悪くはなかったよ・・・ただ、今どの陣営も武力を集めてんだろ?だったら負けが決まってる陣営にいなくてもほかのところが俺を求めるはずだ、お前らには悪いがこの陣営にいる必要性を俺は感じない」


 実際サナス達とのあの戦いは俺の今までの戦いの中でも一番爽快感を味わえる戦いだった、死ぬかもしれないという緊張感からの勝利が異常なまでの快楽物質を脳内に溢れ出させていたのを実感できた。


「貴様、もし敵となり姫の居場所を吐けば・・・」

「わかってるって、お前らの姫の居場所は吐かないし極力敵にもならないようにするさ!」

「フン」


 エレナの人も殺せそうな殺気を軽く宥める。

 ま、嘘だけど、俺は合理主義者だからな、せいぜいうまい汁が出る方に行かせてもらうぜ。

 二ヒヒと下を向き笑いを隠しているとぼろぼろな服を着た子供にぶつかる。


「お、わりい」

「す、すいません、ど、どうかお許しを!」

「いや別に・・・」


 少女はすぐに頭を地につき誠心誠意謝罪している、俺が許すと目も合わせずさっさと街角に走りさって行った。

 なんだったんだあれは・・・

 俺が好奇の目で離れていく子供を見つめていると横から見ていたレインが話しかけてくる。


「あれは奴隷ですね」

「奴隷?そんな前時代的なもんがあんのか・・・」

「奴隷は上流階級の者にとっての重要な資源です、大切な働き手としてヴォルドベルク全域で奴隷は扱われていますよ」

「俺も奴隷かってハーレムつくりてぇなぁ・・・」

「す、すごいこと考えますね・・・奴隷制度については何も思わないのですか?」

「まぁ、俺にはどうしようもないしする義理もない、弱肉強食弱い奴は一生搾取されるのは当然のことだ、でも俺の世界はなんも力もない弱者の分際で権利を主張する馬鹿な輩が多いからな、こういう強者が贔屓されているところ、俺がこの世界の一番気に入っているところだな」

「・・・はっきりしていますね、ですが強者だからと言って弱者を虐げていい理由にならないと私は思います」

「奴隷制度に反対なのか?」

「ええ」


 レインははっきりとした口調で返す。

 弱者は虐げられ支配され搾取される、大なり小なりどこの世界でもこれは変わらない構図としてはびこっているものだ、別に奴隷制度に何も思わないことがないわけじゃない、ただ、弱者は強者に虐げられるのは当然と俺は思っている、だからこそ努力して【最強】になったのだから。


 街角を曲がると人だかりができている、その中を横目で見ると兵士を横に連れた高貴そうな服を着た横幅の大きな男がその子供を叩いて蹴って罵声を浴びせている、子供は泣きながら謝罪の言葉を口にする。


「貴様ぁ、奴隷の分際で、大貴族!デンブリー家当主のわしにぶつかりさらには服に汚れをつけるとは・・・そんなことが許されると思っているのか!」

「痛っ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


 どうやらまたぶつかったようだ、まったく間抜けなガキだ、しかしそれより気になるのは町の中で子供が暴力を受けているというのに誰もそれを止めないことだ、現代人の俺には狂気的な光景だ、いや現代でもこんなもんか、現代でも助けを求める人を何人もの人が無視し死亡した事件がいくつもある。

 隣にいるレインやエレナは一度貴族たちの喧騒を見ると表情で嫌悪感を露わにし立ち止まる、俺も合理主義者と自称しながら人間だ、こいつらの行動に不快感を覚えないわけじゃない、しかしエレナ達はこぶしを握ったままなかなか動かない、おそらく貴族と事を構えたくないのだろう、仕方ない。


「許さんぞ!侮辱しおって!決めたぞ、貴様はわしの犬のえさにっ」


 ドゴォッッ


「ぐあっ」

「おい、汚ぇ豚を殴っちまったから俺の手が汚れちまったよ!」


 野次馬をどけ貴族の豚野郎を吹き飛ぶような威力でぶん殴る。

 それを見ていたエレナ、レインを含めた民衆たちは全員目を丸くし唖然としている。


「貴様、わしを誰だと・・・」

「お前こそ俺を誰だと思ってんだよ、俺は【最強】の男だぞ」

「貴様など見たこともないわ聞いたこともないわ!おい兵士達!ひっとらえよ!」


 横の兵士たちが俺をとらえようと武器を構えるとエレナ達が俺の前に立ちそれを制止する。


「これ以上の暴力行為はハインツ家として止め刺させてもらう」

「なぜハインツ卿が・・・そうかその男は仕王選のために転生させた男か、しかしそいつはわしをなぐったのだぞ!」

「デンブリー卿、この国では奴隷にも最低限生きる権利は保証されている、暴力行為はそれを脅かす悪辣な行為だ、彼はその行為を止めるために動いたに過ぎない、むしろ一発で済んだ貴殿も甘んじて受け入れるべきだ、それとも法に適用し罰則を受けたいか?」

「貴様ら・・・くそ、帰るぞ!」


 そのデンブリーという貴族はエレナの圧に押され尻尾を巻いて帰っていった。

 倒れる子供は起き上がると近づいてくる。


「ありがとうございます・・・」

「俺はあいつにムカついたから殴っただけだ、別にお前のためじゃない、ああいう怖い奴もいるんだ、もう少し気をつけて歩けよガキ」

「はい・・・」


 泣き目になりながらも今度こそ子供は走り去っていった。


「すごいですね・・・僕と姉は動けませんでした・・・」

「ムカつくんだよ、弱いくせに自分の権力を振りかざして好き放題してる、ああいうやつは」

「もう少し後先を考えて動け武上、今我々の国で仕王選に協力的な貴族は少ないんだ、少しでも貴族からの印象はいい方にもっていきたい」

「でもお前も黙ってみてればいいのに自分の身分をさらして俺を助けたじゃないか、お前もあのガキを助けたかったんじゃないのか?」

「私はお前の武力のほうがあの貴族の協力より有益に思って助けただけだ」


 全く素直じゃないんだからエレナちゃんは・・・

 奴隷の件を終わらせまた向かい始めるとすぐ姫のいるという大きな館につく、装飾はされてなく外壁には植物が生え茂っている、手入れの全くされていない館だ。

 扉に向かいエレナが自分の名前を叫ぶと扉が開き、3人のメイドが俺たちを出迎える。


「はじめまして騎士様!私はここのメイド三姉妹の三女サナとこっちの赤い髪の子が次女のセナで青髪が長女のアナで・・・」

「おい、相手は騎士様だ、我々の名前など知ってもらう必要なんてないんだよばか!」

「そうなの!?」

「静かにしなさいあなた達、すいません騎士様お騒がせしました。お待ちしておりました、姫様は今二階の花の間にいます」


 冷静沈着の青髪のアナ、男気溢れる赤髪のセナ、そして元気旺盛の金髪サナか・・・第一印象が濃すぎて忘れようにも忘れられないな・・・

 大きい中央階段を渡りひときわ目立つ扉の前に立つ。

 ふふふ、ようやくだ、この時を俺は待っていたぜ、相当大事に隠されていたお姫様だ、きっと美人な子に違いない!しかも完全な偏見だが姫ってのはだいたいボインなお姉ちゃんだ、どうだかねぇ、守るに値するかよーく眺めて品定めしてやる・・・

 扉を開けると大きな風と花の匂いが吹き上げてくる。

 さぁて・・・って・・・


 扉を開けすぐに俺は彼女と目が合った、その時全く動けなかった、まるでメドゥーサと目が合い体が石になったようだ。

 花だらけの部屋には本を読む少女、そこにはしっかり少女がいた、正真正銘の少女、俺が想像するよりかなり若い、年は中学生ほどか、ショートカットでブロンドの髪、顔は白くあまり外に出ていないのがわかる、そして一番気になるのはまるで死んだ魚のような光のない目をしているところだ、その彼女の闇の深い目は見れば見るほど動けなくなる、沼にはまって沈んでいくような感覚、そしてその目のせいか彼女の周りには悲壮感が漂っている。


 期待していた胸は一切ないが俺にはそんなことどうでもよかった。


 容姿端麗・雲中白鶴・媚眼秋波、どんな美人をほめたたえる言葉でも彼女を表すには足らない。


 しかし顔ではない、一目惚れ?いや違う何かが、俺の本能的な感覚が彼女を尊いと思ったんだ、なんだか懐かしいようでデジャブのような初めての感覚。





 俺は今、初めて人を見ただけで涙が頬を伝う経験をした。








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