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掃除の事なら、CSCへ  作者: 悠愛
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その1

もし…戻れるなら、戻りたい。

大切な人が笑顔で居てくれるんなら、何だってする。

不安で歪めた顔、怯えて泣きじゃくる顔ばかり。

もっと早く…後悔ばかりしても戻せない、戻れない。


彼女にとって、今の方が幸せなのかもしれない。

特異な体質を利用されて無理矢理させられる事も無い。

彼女を愛する人も、こんな事が無ければ以前のような振る舞いをしていただろう。

願わくば、この先2人が幸せに過ごせる時間が続くようにと祈るばかり。


おかしな距離感の2人を眺めながら、穏やかな時間が過ぎていくのが微笑ましい。

繋がれた糸が絡まって解けない場所がいくつもあっても、2人は諦めないで少しずつゆっくりと歩み寄ってるんだと思う。


見てて飽きない、あの子に振り回されてる。

人はあんなに変われるのかと驚く。

全てを忘れてしまったあの子自身は本質は変わってない。

ただ、全部放棄して素直になった。

もう、しがらみも手枷足枷もない自由になって…大好きな人と過ごしたかっただけなんだよね?

あの子の強さに気付いてないみたいだけど。

教えてやらない、これ以上喜ぶとこなんか見たくない。


「璃空、着いたぞ…今日からここがお前の家だよ」

車からおろして手を引いて新居の玄関へ向かう。

インターホンを鳴らすと返事が返ってきた。

「おかえり、開いてるよ」

玄関を開けると、住人が出迎えてくれたのを見てギュッとしがみついてくる。

「挨拶して、左の人が凌さん。真ん中が颯太、右がアキ」

「こんにちは」

消え入りそうな声で挨拶を返す。

「やっぱ、こーなるよねぇ」

「そのうち慣れてくでしょ、毎日見るしさ」

「部屋、一応片付けてるけど気に入らなかったら直して」

「サンキュ、璃空…ほら、靴脱いで」

「ミサキさんは後から様子見に来るって」

「ほら、中に入ろ?」

これから一緒に暮らす住人に怯えてるのか動いてくれない。

仕方なく、手を引いて膝に座らせて靴を脱がせてあげる。

そのまま手を引いてリビングへ向かってソファへ座らせた。


ここは、元々は会社寮だった場所を買い取ってリノベーションした。理由あって、俺含め他3人はここでルームシェアをして暮らしていた。

璃空はある事故から、全て忘れてしまい今は子供の様な振る舞いをする。

璃空の実家は霊能者の血筋で、ずば抜けて能力があったため子供の頃から、子供らしい遊びも知らず、学校すら通わせず仕事をさせられてきたらしい。

年相応の遊びもしたことも、友達と遊ぶ時間もなかった。

父親同士が知人で、子供の頃に許嫁にはなったが…

璃空に初めて出逢ったのは俺が高校入学の頃だった。

顔合わせも璃空は仕事があるからとすぐに抜けてしまい、親同士が食事を楽しんだだけ。

次に会ったのは、俺が成人した時で、5歳下の璃空は高校生。

やっと、会話をした。

大人しそうな外見とは違って、明るくて元気な印象だった。

そんな璃空が今みたいになったのは、心無い親族同士のゴタゴタが原因だった。

初めて会話をした日の食事会の後、璃空は仕事へ向かったため無事だったが、原因不明の事故で両親は亡くなった。

葬儀の後、親族同士で璃空の親権を取り合いになった時に、璃空の親が裏でしていた事やお金の事など…。

罵声や掴み合いになりながら、争う大人達。

許嫁の俺もそこに参加はしていた。

隣に居たのに、庇ってやることも連れ出す事も出来ず。

気づいたら璃空は、葬儀場の屋上から飛び降りた。

運良く、植え込みに落ちて軽傷だったがショックからなのか璃空は全てを忘れてしまった。


それが数ヶ月前の話。

璃空の親族はその場に居たうちの両親の計らいもあり、法律上の裁きを受ける事になった。

法廷へ本来なら璃空も出廷する必要があったが、本人が全てを忘れてしまってるため免除された。

全てもう一度学ばなければならない。

目が覚めた璃空は、取り乱し泣き叫び暴れるのを捕まえて落ち着くまで抱きしめると冷たくなって震えていた。

泣き疲れて眠って、起きたらまた暴れる。

やっと、落ち着くまでに一週間かかった。

少しずつ繰り返して、やっと退院出来たがまだ通院は必要。

あの時、助けられなかったのに璃空は俺の言う事は大人しく従ってくれたが、それ以外は怖がり怯えてしまう。

逆に璃空に俺はどう認識されてるのか疑問だが、頼られてるのはわかる。


結果的に、璃空とは夫婦になった。

そんな時、凌さんがルームシェアに誘ってくれた。

凌さんは親父の弟だけど、俺の方が歳が近く昔から可愛がって貰っていた。

葬儀から今日まで、あっという間だった。

璃空がこんな状態では2人きりの生活は大変だろうと。


颯太は、虐待され続けネグレクトになってるとこを凌さんが拾ってきた。

身体中その時の古傷があるが、本人は気にしてない。

そんな過去があったのか?と思うほど、呑気な大学生だ。


アキは前科者で少年院あがり。世間を騒がせた事がある事件の首謀者だったが、今はバイトをしながら通信制高校に通っている。


凌さん本人も昔はヤクザで、それなりにヤバい事もやってたらしい。今は色んなマンションの家賃収入で生活してる。

凌さんが言うには、ヤクザを辞めたのは俺のお陰らしい。


ミサキは元住人で、ゲイで別の凌さん名義のマンションに住んでるが、ここ部屋も空家賃を払ってる。

本人曰く、ここが実家らしい。本名は岬太一。


「さて、今日は歓迎会にしよっか!」

一息つくと、凌さんがキッチンへ向かった。

「足らないのあります?郵便局行くついでに行きますよ?」

「ほんと?じゃ…メモ渡すね」

ソファに座って璃空はずーっとやり取りを観察していた。

「凌さんがご馳走作ってくれるんだって。アキはそのおつかいに行くって」

「おつかい?」

わからない璃空は何でも疑問に思う。

横から颯太が話しかけて来た。

「凌さんはごはんを作ってるでしょ?」

「うん」

「アキくんはその材料を買ってくるんだよ」

病院生活で看護士が入れ替わる度に取り乱していたがそれに慣れたおかげか颯太の話をふむふむと聞いていた。

颯太に慣れた訳ではないが、敵意は無いと判断したらしい。


夕食後に風呂に入って、部屋で璃空の好きなアニメを流してやると大人しく見ている間にスマホを確認する。

珍しく、璃空を味方していた親戚からの連絡が入っていた。

颯太を呼んで、見張りを頼んで屋上へ行って電話をかける。

『仁君、連絡ありがとう。璃空の様子は?』

「落ち着いてますよ」

『そうか…実は璃空の両親の事件の件なんだが、本家の者が絡んでいたようでね…違う者が容疑を認めて罪を償うみたいなんだよ。今度こそ璃空に何かするかもしれなくてね…』

「トカゲの尻尾切りですか…」

『本家は璃空を手放すつもりはないみたいでね…忘れたんなら仕込めばいいと言ってたよ』

退院した事は伝えてない。むしろこのタイミングで話をしてきた方が怪しい。

「そうですか…わかりました。連絡ありがとうございます」

通話をこちらから切って、急いで部屋へ戻った。

「アキは?」

「部屋でパソコン組み立ててると思うよ?」

璃空はアニメに夢中になってる。

「アキ、何かついてないか確認してもらえる?」

「昨日確認した時はなかったけど…時間少しかかるよ?」

ついでに璃空にも手を貸して貰うか…区切りも良さそうだな。

「璃空…イヤなカンジとか邪魔なカンジするか?」

「あったよ」

「なんだ…もう、やったのか。いつ?」

璃空は違和感がある場合無意識に能力を使ってるらしい。

「靴脱いでる時」

「よし、この中に居るか?」

「えと…これ」

スマホで璃空の親族関係者の集合写真を見せる。

指をさしたのは予想通り、連絡をしてきたヤツだった。

璃空本人が、初めて会話をした時に話してくれた。

自分との会話は誰かに聞かれてると。

病院にいる間、忘れてる璃空が何も無いのに怖がるばかりで暴れてしまうので、イヤなら消していいと伝えた後、ピタリとそれが止んで会話も成立するようになった。

璃空の説明では、ノイズが混ざるようになるらしい。

常に監視、盗聴されてるストレスがなくなった事で、璃空本人は解放されたが、本家連中には能力が使える事がバレてしまったという訳だ。


「颯太、璃空見てて」

「はーい、璃空さん続き見ようよ」

人懐っこい颯太なら、任せても怖がる事は無さそうだ。

「凌さん…ここバレたかも」

「一応、手は回してるし。アキくんも居るし、璃空ちゃんも妨害するでしょ…ほら、落ち込まない!」

優しくポンと頭を撫でられる。

「らしくないなぁ、仁はどうしたいのか決めてるのに」

「ま…一応芝居もしとかないと」

つまり、相手は罠に掛かった。

スマホでアキにメッセージを送信。

「ま、相手が悪いよねぇ。霊能者だか知らないけど」

「あっちが悪者なのに、俺を悪役っぽく言わないでよ!」


この一族から璃空を助ける為に色々と組み立ててきた。

璃空の両親が事故に遭う事も知っていたし。

きな臭い一族で以前から多方面から目をつけられていたが証拠が上がらずだったのだ。

唯一の誤算は璃空がショックで飛び降りてしまった事。


相手が悪いとは凌さんも酷い。

何故、璃空の両親が俺との婚約に乗り気だったか。

自分の代わりを物心つく頃からさせて、自分は甘い汁だけをすすってきて汚いヤツが。

璃空の父親は違う能力がある俺を嗅ぎつけたのだ。

巫女の家系だ。生業としては男ではどうにもならない。

政略結婚とお互い理解していた。

初めて話した時、璃空が俺にくれたモノがある。

「仁さん、コレあげる」

璃空は両親や一族がしていた事を知っていた可能性が高い。

「それ付けてて、絶対に、外さないでね。お願い」

「お守り?」

「うん…」

璃空から渡された天然石のブレスレット。

何かしてあるのはわかったが、探ると解ける気がした。

代わりに自分がしていたネックレスを外して璃空につけた。

そのお陰で、全て忘れたはずなのに璃空が目が覚めて落ち着いた時、ちゃんと俺は認識出来ていた。


「お腹空いたぁ」

リビングでミサキの声がしたので、凌さんと向かった。

颯太からは、丁度アニメを見たまま眠ってしまったとメッセージが届いた。

「どうなった?」

「家宅捜索入るけど、証拠らしいのはあがらないかもねぇ」

「法的には、微妙なとこだろなぁ…出来てりゃ兄さん達がやってるだろうからねぇ」

「あ、チャーハンなら俺も」

「言うと思ってやってるよ」

璃空が眠ってから食事をするようになってしまっていた。

食事を済ませ、部屋に戻って璃空をベッドに移動させた。

気を許してないヤツが触れようとしたら、生命危機とばかりに泣き叫んで抵抗するし、触れようとした相手が危ない。


結果的に、璃空の親族が金輪際こちらへの接触は禁止。

これまでやってきた仕事も出来なくなる筈だ。

と言っても懲りないだろうな。

幼くなってしまった16歳の少女は、自分が知らない間に既婚している事をどう思うのだろう?


え?凌さんやミサキが何者かって?

まぁ、ここは厄介者の集まりですが頼めないような事をうちで掃除させて頂いております。

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