prologue-1
「ブレスが来るぞ!避けろ!」
標的が息を吸い込む動作を見た誰かが叫ぶ。
標的の正面にいた人たちが慌てて左右に分かれる。
──ギヤアァァァァァァ
咆哮とともに吐き出される火球。
逃げ遅れた何人かが手足に火球を浴び、慌てて治療を開始しているのが見えた。
少し不安だが、あの様子だと大丈夫だろう。
「行くぞ」
「オッケー」
標的のブレスは強力な半面、その後に大きな隙ができる。
標的の後方、尻尾による攻撃を警戒し少し離れた位置にいた俺たちはその隙を逃さないように火竜に向けて走り出す。
俺たちは高山の頂上でその山の主と対峙していた。
見上げるほど大きな体。その体の表面を覆う鱗。両脇に生える大きな翼。大きな体を支える力強い四肢。そして太く長い尻尾。
これらは竜種の特徴だ。
巨大な体躯に見合った体力。硬質な鱗による防御力。翼による機動力や制空能力。強靭な四肢による踏みつけ。しなやかな尻尾による薙ぎ払い。
竜種はこれらのことを意識して戦闘しなければならない強敵だ。
今回はさらに強力な火球にも注意が必要な火竜が相手だ。
しかし、俺は慣れている。
「ハッ」
走ってきた勢いを利用して左右の手に持った剣で同時に突きを放つ。鱗の隙間を狙った攻撃はそれなりのダメージを出しているはずだ。
そのまま間髪入れずに左右交互に斬りつける。
俺が持っている双剣は単発の攻撃力はそれなりな反面、手数によって高いダメージを出すことを得意としている。
軽いので狙った場所に当てやすく、ダメージも出すことが出来るので俺の好きな武器の一つだ。
「おっと」
密着して攻撃を続けていた俺を鬱陶しく思ったか、踏みつけによる攻撃を行ってくる火竜。
しかし事前にその予備動作を捉えていた俺はステップによる回避を行う。
この機動力の高さも双剣の魅力の一つだ。
パパパパーーン
回避と攻撃を続けていると聞こえた効果音。
火竜の討伐を知らせる合図だ。
掛かった時間を確認すると15分を切っている。まずまずのペースだ。
「よう。お疲れ。やっぱタイガがいるとはえーな」
「まあ、これしか取り柄がないからな」
討伐した火竜から素材を剥ぎ取っていた俺にかけられた声に軽く返すして、俺は剥ぎ取りの続きを行う。
周りからは欲しい部位が取れた、取れないで盛り上がる声が聞こえてくる。
結局、全員の欲しい素材が出そろうまでに3頭追加で倒した後パーティは解散した。
「ふぅ」
ヘッドセットを外し、ゲーム機の電源を切る。
ヘッドセットの視界に映るのは火竜の棲む高山ではなく、普通の高校生である僕の部屋だ。
最新作を遊ぶのに必要な高校生の身には少し高価なヘッドセットを丁寧に仕舞う。
人気狩猟ゲームシリーズの最新作は僕がこの世界の中で唯一自信を持って取り組める物事だ。
万が一機会が故障して遊べなくなってしまってはいけない。
(少し遅くなってしまったな)
僕はベットに寝転んだ。
明日は学校に行かなくてはいけない。早く寝て、寝過ごさないようにしなくては。