【92】 さらばセイフの街
外は雲ひとつない青い空が広がっていた。そこに目映いほど太陽が堂々と。そんな当たり前の光景に、俺は掌を翳していた。
あとはミーティアの支度を待つだけ。なにやら手間取っているようだ。だから俺は青い空を仰ぎ見ていたのだが。しかし、それよりもルナとソレイユが道行く人に注目を浴びまくっていた。二人はそこにいるだけで目立つからなぁ。
「お待たせしましたー!」
やっと来た。
店の中から慌しく飛び出して来たミーティアは、ぜぇぜぇ息を切らしていた。そんなに手間が掛かっていたのだろうか。だが、その証拠は視覚的に現れていた。
ミーティアの金の髪だ。そのいつもなら枝毛ひとつない髪が乱れていたのだ。少し心配になるくらいにはボサボサ。これでは、ルナと対照的だな。
「遅いぞ、ミーティア」
「ちょっと寝不足だったもので……準備に時間が掛かってしまいました。ギリギリ遅刻ですよね。ご、ごめんなさい」
「そうなのか? う~ん、そうだな。酷な事を言うようだけど、たとえ数秒でも遅刻は遅刻。これはよくない。余裕を持って行動しないとな、人を待たせるのは良くないから」
「はい……」
「まあまあ、カイト様。ミーティアちゃんも悪気があったわけではありませんから、どうかお許し下さい。お願いです」
やば……ルナから、そんな切ない顔されたら俺は折れるしかなかった。
ああ――しまった。つい『商人』としての悪いクセが出ちまった。俺としたことがイカンな、猛省せねば。いやだが、時間を守るというのは大切なことだけどね。ミーティアには教訓にして戴きたいものだ。
「じゃあ、行こうか――【帝国・レッドムーン】へ」
◆
随分とお世話になった【セイフの街】を出た。
思えばいろんな事があったな。ルナと店を出したり、複数の暴漢に襲われたり……そして、シャロウの襲撃事件。
帝国へ行けば、もうそうトラブルにも巻き込まれない筈だ。心からそう願いたい――頼むから、のんびり経営をさせてくれ。商人の神様。
――歩くこと30分。
広範囲に続く森林を俺を含め四人で歩いていた。幸い、モンスターの気配はない。このままほのぼの『帝国』へ辿り着けるといいのだが。
と、そんな時だった。
前を歩いていたソレイユとミーティアの会話が聞こえた。
「ミーティア、あんた帝国出身よね?」
「ええ。私は【クラールハイト家】ですから。ソレイユさんの【エクリプス家】とも深い繋がりがありますよね。私は養子なので、あまり深く突っ込んだ事はないのですが……」
「名家・クラールハイトか。それは大変ね……。ブラック卿とは何度か言葉を交わした事があるわ。その時に耳にしたけど、共和国・ブルームーンの【ファルベ家】と因縁深いとか」
「はい。私はその【ファルベ家】に騙され、罠に掛かり……2億の借金を背負ったのです。でも、今はカイトに肩代わりしてもらっているので……本当に感謝しています」
「そうだったわね。でも、このまま『帝国』に戻るということは――ちょっと大変かもね」
「大丈夫です。私は逃げも隠れもしません」
「そう、分かった。じゃあ、いざとなればあたしを頼りなさい。【エクリプス家】の名を使えば、あのガチガチ頭のブラック卿もあんたをどうこうしようとしないわよ」
「……ありがとう、ソレイユさん」
どうやら『帝国』では一波乱ありそうかもな。




