【07】 貨幣
「分かったよ。君の望みを叶えよう。俺はルナに助けられた恩があるし」
「本当ですか! とても嬉しいです……」
なんて純粋で優しい笑顔。
こんな表情をされたら協力してあげたくなる。というか、一緒にお店を構えるのか。悪くない――寧ろ歓迎。こんな美人メイドがいるのなら、毎日が絶対に楽しいだろう。
「じゃ、ルナのレベルを買い取るよ。もう一度確認するけれど本当に良いんだね」
「お願いします」
目を瞑り、祈るようなポーズで待機するルナ。
そこまでの覚悟か。ならば、あとは『レベル売買』スキルを発動するだけ。
俺は商人だから契約を果たすまでだ。
「じゃあ、手を握るね。これには契約の意味が込められているから」
「……はい」
彼女は改めて瞼を開け、手を伸ばしてくる。俺はその白い手を優しく握り――契約を交わした。
「レベル買い取り開始」
ほわほわと青い白い光がルナを包む。
彼女のレベルがどんどんマイナスに転じていく。
減っていくルナのレベル。
『900』……『500』……『300』……『100』……最後には『Lv.1』となった。これで売買手続きは完了した。
「買い取り金額は、手数料を諸々差し引いて『7,500,000セル』ね。
一応補足しておくと、レベル買取スキルの利用コスト『998,000セル』を差し引いているよ。あと、知っていると思うけど、帝国は税金がやたら高くてね……脱税で捕まりたくないんだ、ごめんね」
理解していると、ルナは頷いた。
ちなみに『セル』は、この世界の共通貨幣だ。
俺たちが丁度いるこの国は『帝国ペイ』が基本となっており、他の国にも『マリンペイ』というものが存在する。よって、紙幣も硬貨も存在しない。
人々は、嵩張る財布を携帯せずとも『帝国ペイ』か『マリンペイ』を登録し、人体――主に『手の甲』へ特殊な『マネー術式』を埋め込めば、自由に買い物が出来るようになる。お金も際限なくチャージできるし、労働賃金などを受け取ったり、人々の生活において必需術式なのだ。
尚、通常『右手の甲』が【受け取り】用。
逆に『左手の甲』が【支払い】用となる。なぜこんな仕組みかと言えば誤爆防止の為らしい。ただし、これは国や地域によって部位が異なる場合もある。頭や足って人間も稀に存在する。
そして、これを一纏めに『インプラント術式』という。恐ろしい程に高等で、ほんの一握りの大賢者にしか扱えない魔法スキルなのである。
「こ、こんなに……」
「まあね。ちゃんとした契約取引だから、お金はきちんと渡すよ」
「ありがとうございます」
しっかりとルナにお金を渡して、売買は成立・完了した。
――よし、無事に終わった。
こんな高額取引も安心と信頼の、数値だけによる『ペイ』取引だし、税金も勝手に計算され、引き落とされる。ラクチンだな。




