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【04】 優しい手
その手を取るべきか躊躇っていた。
もし握れば、またあの理不尽が待ち受けているかもしれないと思うと、なかなか気が進まず、思うように手を伸ばせなかった。
だから……
俺は……
手を取らなかった。
――――けれど、
少女は違った。
傘を無造作に捨て――その小さな両手で俺の手を優しく握り、引っ張り上げてくれた。しかも、こんな全身が泥まみれの俺を聖母のように包み込んでくれた。
「…………え」
「辛いことがあったのですね」
「…………俺は」
「もう大丈夫。あなたは、わたしが必ず助けますからどうか安心して」
「どうして……」
「わたしもあなたと同じギルドを追い出されたから……その痛みがよく分かるのです。だから――」
なぜか少女は感謝をしていたような。
――それからの記憶はない。
ずっと身体を投げ出し、雨曝しだったから――低体温症に陥ってしまったようだ……。体力だけでなく、視力や聴力を失い……やがて目の前が真っ暗になった。